良き読み手を育てたい [遊]十二綴・師脚座

2019/09/23(月)09:36
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 木村久美子月匠は、[遊]物語講座の学匠をつとめる。しかしながら、2019年8月24日、豪徳寺の学林堂で催された師脚座にその姿はなかった。夏風邪により無念の欠席。十二綴は負の先払いからの船出となった。


 八田英子律師が木村学匠から託された言葉で座を開く。赤羽卓美綴師、吉村堅樹林頭のあいさつのあと、師範と師範代が近況と抱負を述べる。ここで4つの文叢名が発表された。

 

 ◇白鯨大地文叢    岩野範昭 師範代、前原章秀 師範
 ◇リリス草迷宮文叢  裏谷惠子 師範代、福澤美穂子 師範
 ◇ニルス吉里吉里文叢  猿子修司 師範代、小濱有紀子 師範
 ◇百日紅ギャツビー文叢 松井路代 師範代、森井一徳 師範

 

 2つの文芸作品の一種合成によるネーミング。キャスティングこそがイシス編集学校の講座をマネージする肝である。各チームの師範と師範代が隣り合うように席替えする。


 冒頭、赤羽綴師が稽古の順番が大きく変わることを説明する。「書き手だけではなく、良き読み手を育てることも大切にしていきたい」。プロローグのお題の狙いを皮切りに、カリキュラムに沿って技法のレクチャーに入っていく。


 福澤師範がトリガーショット、小濱師範が編伝1910を語る。窯変三譚の落語解説が終わった頃、サングラスをかけた松岡正剛校長がすっと入ってきた。「そのまま続けてね」とくつろいだ様子で椅子にかける。森井師範が軽快にミステリー方法を列挙する。


 前原師範が幼な心のスコープの指南モデルを取り出し、手渡していく。岩野師範代と松井師範代は前綴の経験を重ねて応じる。裏谷師範代と猿子師範代はより叢衆に近い立場でクエスチョンを投げかける。稽古の取り組みやすさに目配りしながら、全員で細かな改変を検討する。


 あっという前に時間は過ぎて、いつの間にか、セミの声が止んでいる。吉村林頭の進行で松岡校長とQAを交し合う。地域に火をつける方法、日本語のアヤの起源、脳と文字と物語の変遷、等々。

 

 午後8時、セッションは白熱を増す一方だ。「お弁当を出したら」と校長が促す。雑談(ぞうだん)の空気のなか、話題はますます万象へと広がっていく。

 

 

10月7日開講!物語講座第十二綴は只今受付中

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025