中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
Japan Blue―藍染のシャツ、青藍のスラックスという装いの華岡晃生師範とクロニクル編集術が得意な古谷奈々師範代との交わし合いから始まる。クロニクル編集術は自分史と課題本の歴象データを混ぜ合わせ、新たな年表をつくる稽古だ。コツコツと積み上げる粘りと大胆なリミックスが求められる。46[破]アジール位相教室の学衆だった古谷師範代が楽しく稽古できたのは、元々ロジカルな整理が好きだったことに加え、アナロジカルな視点を気付かせてくれた畑勝之師範代のおかげだった、という気づきがあったところで、「今度はみなさんが学衆さんの得意を伸ばし、苦手を後押しして欲しい」と華岡師範が講義に入っていく。
「クロニクル編集術は過去の自分に起きた事件の見方を変える精神科診療とも似ている」華岡師範は自身の仕事と関係付けて、方法の類似性を示す。これに対し、隣に座る福田容子番匠が口を開く。「精神科診療は、医師が他者として自分史に介入するのに対して、クロニクル編集術は本を介入させる。自分自身で自分史の見方を変えることができるのが特徴ですね」と華岡師範の説明にマーキングを付けた。感門之盟で松岡校長とQEを繰り広げた福田番匠が講義をさらに際立たせるためツッコミ役として並走しているのだ。
福田番匠は「本が一即多 多即一を持つメディアであるのならば、人間は本でありメディアである」という華岡師範の言葉を引き取り、「そういう思いで、一度おぼれるほどの情報を扱ってみるのがよい。これからの編集の冒険に向けて、編集的な体力を付けて欲しい」とその先を示し、華岡師範の「千夜千冊エディションのリミックス感を歴象の組み換えにも活かして欲しい」に、「リミックス感は似ているが、時系列のオーダーの有無にも注目しておくことが大切」と言葉を添える。
講義は、二人のやり取りで、塗り重ねられ、視野角を広げながら、指南事例を使った実践に踏み込む。ここに華岡師範は、自身の学衆時代の回答、師範代時代の指南を紛れ込ませた。福田番匠からは「このときは何を考えていたの」、「もっと突っ込んだ指南をした方がよかった」と指導的ツッコミが入る。今期の師範代にとっては、このやり取りが指南のリアルなマナビになる。加えて、昔の残念を敢えて持ち出し講義で使い、体験していてよかった不足に還元する華岡師範の姿勢は、過去のできごとの見方を変えることを自ら体現するものだった。「エディティング・セルフが自由に躍動することで、歴史の見方が変わっていく、そのような指南を目指して欲しい」と華岡師範は講義を締めくくる。エディティング・セルフの表出を求めるのであれば、自らもエディティング・セルフを躍動させる必要がある。そのカマエを師範として示した45分間だった。
写真:後藤由加里
▼49[破]締切間近。最終受付は10/10(月)。
きたはらひでお
編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。
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コメント
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