『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
松岡竜大さんは稽古の人である。イシスで学び始めたのとほぼ同時に、合気道を習い始めた。松岡竜大さんは音楽の人である。プロのギタリストであり、鹿児島でレッスンを行っている。松岡竜大さんは読書の人である。千夜千冊の連載を欠かさず読み、そこから派生した書物を蒐集、言葉をノートに記録する。イシスの稽古を通して、関心のあることに向かう時に読書を取り入れるようになった。
イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ。第3回は、「松岡竜大さんが合気道の外稽古の最中に体感したこと」をお届けします。
■■森の中で音楽が聞こえてくる
少しぐらい寒さが厳しくても、冬の風は心地よい。鹿児島祥平塾で合気道を学び始めてすぐに、近くの公園で外稽古を始めた。より自由度を高くしたせいか、頬を柔らかく愛撫する風を感じる様になる。身体を操作するよりも、その風を途切れない様に感じた方がよい。身体の外側と内側がひとつになる。
火照りを整えるために、城山の遊歩道を登る。ここで、風は森全体を響かせる息吹になる。指揮者の居ない、偶然(ハプニング)が奏でるオーケストラ。遠くから、何かが気配を伴って摺り足の様に近づいて来るその時、武満徹の “弦楽のためのレクイエム” が聞こえてくる。
《音によって組み立てられる、抽象的な構造の美を至上とするヨーロッパの音楽に対して、日本の伝統音楽は、音によって構築するというよりは、一音の中に、変化する動きの相をとらえ、それを聴き出そうとする、移ろいゆく変化を何よりも大事にして、そこに「さわり」というような、独自な美意識が生じた》(『武満徹エッセイ選 言葉の海へ』小沼純一編、ちくま学芸文庫)
木々は、大地に強く深く根を伸ばし、先端を柔らかくし、風の抵抗を受けきる事で、躍る。
合気道は脱力が基本にある。能動的な脱力とは、主体性を捨て、ふにゃふにゃする事ではない。武満徹が、西洋と日本、異なった二つの音楽を自己の感受性の内に培養するといったように、矛盾を解消するのではなしに、その対立を自己の内部に激化するといったように、二項同体(清沢満之)で世界を捉えることではないだろうか。
夜の森で風を聞くたびに感じるものとは別に、改めて武満徹の音楽を聴いてみる。
《僕はたくさんの中から一を聴く様に努力したいと思うのです。一つの音にも世界を聴きたいです》(『武満徹対談選 仕事の夢 夢の仕事』小沼純一編、ちくま学芸文庫)
箏曲家の宮城道雄は、都会の真中に住んでいて、海の潮鳴りを聞いていると言った。からだは都会の真ん中に置きながらも、魂だけは遥か海辺に遊ぶことができた。宮城道雄も一つの音に世界を聴いていた。この様な意識の在り方を貫く日本という方法があるに違いない。
今日も風が途切れないよう風を感じて走る。
▲松岡竜大さんのギタースタジオ。音楽空間に書物がインタースコアされている。
文・写真提供/松岡竜大(46[守]角道ジャイアン教室、46[破]多項セラフィータ教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2026-03-19
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2026-03-17
目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。