涕涙の二刀流【79感門】

2022/09/10(土)21:00
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もののふはいつだって危機に立ちあがってきた。

 

48[破]にこつぜんと、だが確かに空いてしまった穴。

ぽっかりと口を開いた常闇に、福田容子は躊躇うことなく飛び込んだ。

 

「わたしが引き受けます」。

 

初めての[破]番匠というロールの只中、5月28日伝習座の最中に帰らぬ人となった師範・渡辺高志のあとを引き継ぎ、番匠と師範を同時に務める二刀流を選んだ。

迷いも戸惑いも不安も、常闇の底に置いてきた。

時がいっしゅん止まった48[破]の中で、電光石火の二刀流宣言はふたたび座を揺り動かした。

 

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今回、仕事で本楼に来場できなかった福田自身がビデオメッセージで語ったように、渡辺と福田のロールの重なりは実は今回が初めてではない。

37[破]では師範代の渡辺を師範・福田が援護し、43[破]では師範代再登板した福田を師範の渡辺が見守った。

 

その43[破]師範代再登板は、福田が13[離]火元組別番のロール中だったという裏話があり、しかしこの時も決然と立ちあがった福田だった。

 

 

ビデオメッセージの切実を[これほど番匠にふさわしい才能はない」と言う校長松岡が見守る。

 

「私とたかし師範のロールチェンジは、編集学校の歴史の中でもそんなにはない関係だったと思います。今回、番匠と師範としてふたたび座をともにし、そして師範を引き継ぎました。私にとっても恐らく学校にとっても類のないロールチェンジを体験しました。

その中で感じたのは、ロールという立場によって、見える顔も感じるものも関係性もカワルということ。それによって救われもするし助けられもする、そして成長させてももらえるということでした」

 

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編集学校の仕組みの得難さは、そのロールが可逆的であること。

教える側になったあとでも、いつでも学ぶ側に戻れるし、ロールは逆転すれば反転もする。

 

「こうした相互性の中で得られるものは、体験した人にしか分からないですし、体験したことで世界が広がるからこそ、私たちはロールを引き継ぎ続ける。突破された学衆の皆さんはもちろん、放伝、卒門した皆さん、そして師範代、師範、ボードの方々も、ひるむことなく次のロールに飛び込んでいってください」

 

かつて、妥協を許さぬ指南が生み出した「袈裟斬り伝説」という福田の属性

その切っ先はいつだって、月にキラリと光りながら、編集道の水月(すいげつ)を指していた。

 

 

※※かつて43[破]でお世話になった福田容子ことふくよ師範代、そして渡辺高志ことたかし師範のコンビネーション。

ふくよ師範代のあたたかな刃と、たかし師範の甘い毒、そのアワセの妙によって生みだされた教室のミームは、私たち当時の学衆のなかに”創”となってちゃんと遺っています。

 

稽古が終わった43[破]に渡辺師範はこんな言葉を残していました。

 

――

約4ヵ月の編集稽古も、振り返ってみればあっという間。

 

これからは、稽古を終えて「遠ざかる年月の長さ」のぶんだけ、

それぞれの胸のうちに「悔いや羨み」が残っていく。

 

これで良しとしてしまえば、それ以上に変わることはありません。

 

まだなにかできたかもしれないと、

自らの不足や残念、「悔いや羨み」に目を向けていくことが

編集の日々を豊かにしていくのかもしれませんね。

 

好きな編集が、ずっと好きであり続けられますように。

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この記事を私が書いて良いのか悩みました。悔いや羨みから目を背けることもある。でも編集は好きであり続けています。

本当にありがとうございました。

 


  • 羽根田月香

    編集的先達:水村美苗。花伝所を放伝後、師範代ではなくエディストライターを目指し、企画を持ちこんだ生粋のプロライター。野宿と麻雀を愛する無頼派でもある一方、人への好奇心が止まらない根掘りストでもある。愛称は「お月さん」。