中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2023年1月初旬、まだ正月の空気が残る中、都内の某スタジオで、撮影が行われた。遊刊エディストでもおなじみの写真家であり師範であり、教育系会社員でもある後藤由加里が、エディストの副編集長にして、読書講座・多読ジムの代将、また数々のプロジェクトを担当するプロ編集者、金宗代をモデルに抜擢した。後藤は、普段はイシス編集学校のイベントや松岡正剛校長の仕事ぶりを撮影しているが、金をモデルにいつか撮影してみたいと密かに温めており、ようやく実現することができたのだ。きっかけとなった出来事は2年程前「Yohji Yamamoto POUR HOMME」春夏2021コレクションの服を金が纏い、川本聖哉に撮影されるシーンを見た時だった。かつて舞台に立った経験もある金の表情や立ち姿には、独特のおもむきがあり、しなやかにして瞬発力ある身体表現は、写欲を刺激するのだ。
ねらいは「雑誌のモデルを擬いてみる」。どのような作品が生み出されたのか、1日の記録と作品をご覧いただきたい。
スタジオの隅に腰かけながら、雑誌を開いてイメージを共有する後藤。撮影において相互編集は欠かせない。
ステレオの前で自分を奮起させるべくお気に入りの曲を選ぶ金。アップビートの音楽が鳴り響く中、撮影は行われた。自分が乗れるモード作りも大切なプロセスなのだ。
やわらかい声かけをしながら、シャッターを切る後藤。金の自然な動きや表情を引き出す。金は日頃プロのモデルとして活動しているわけではないが、感度が高く、イメージをキャッチすることも自ら新しいイメージを作り出し、身体表現に転換することも巧みにできる。
▼後藤による、この日のベストショット。
あえて影や隠れた所をつくることで、あらわれるモノ、ほとばしるモノがある。実はこの日、金は体調が優れず、パフォーマンスに不安を抱えていたが、撮影に入るとみるみる回復し、終わる頃には、むしろエネルギーはチャージされたようだ。撮影の場には不思議な力が宿る。後日、後藤が写真仲間に金の写真を見せると「この人誰?すごい雰囲気、プロのモデル?」とのコメントが飛び交ったそうだ。モデルが褒められることは、写真家にとって誇らしいこと。次の二人のコラボレーションにも期待したくなる。
写真 後藤由加里
文・記録写真 林朝恵
【関連記事】
林朝恵
編集的先達:ウディ・アレン。「あいだ」と「らしさ」の相互編集の達人、くすぐりポイントを見つけるとニヤリと笑う。NYへ映画留学後、千人の外国人講師の人事に。花伝所の花目付、倶楽部撮家で撮影・編集とマルチロールで進行中。
もう会えない彼方の人に贈る一枚 PHOTO Collection【倶楽部撮家】
ある日を境に会えなくなってしまった人。1度も会うことが叶わなかった人。 会いたくても会えない彼方の人がきっと誰しもいるだろう。松岡正剛校長は著書の中で度々、蕪村の句「凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ」を取り上げてい […]
2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読む […]
光を読む、光を撮る。 2025年8月9日、豪徳寺にあるイシス館とオンラインのハイブリッドで倶楽部撮家のメインイベントとなる瞬茶会(ワークショップ)が開催された。倶楽部メンバーは各々、カメラと懐中電灯を持参して集った。この […]
通りを歩けば紫陽花を見かける季節がやってきた。 土の酸性度によって色が変わるこの花は、現在進行形で変化を続ける入伝生の姿にも重なる。 6月になり錬成期間に入った入伝生は師範代になりきって指南を書きまくる日々 […]
写真仲間求む!編集術でカメラと戯れる【倶楽部撮家】が多読アレゴリアにやってきた
「写真×編集」する倶楽部 写真に特化したクラブがついに多読アレゴリアでオープンします。クラブ名は「倶楽部撮家」。名付け親は松岡正剛校長です。 編集を人生する。撮影を人生する。カメラさえあればどなたでも参加可能です。プ […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-29
中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2025-10-28
松を食べ荒らす上に有毒なので徹底的に嫌われているマツカレハ。実は主に古い葉を食べ、地表に落とす糞が木の栄養になっている。「人間」にとっての大害虫も「地球」という舞台の上では愛おしい働き者に他ならない。
2025-10-20
先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。