【参丞EEL便#020】「科学道100冊 2022」先行予約まもなく開始

2022/09/07(水)11:02
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免疫学者の多田富雄さんは、能と免疫学という、異質が行き来する世界を扱うものに向きあわれた。脳梗塞で倒れ、病床で意識を取り戻された時、能の謡曲の「隅田川」や「哥占(うたうら)」をそらんじたという。

科学ジャーナリストの石弘之さん(AIDAゲスト)は、5歳の時から植物学者の牧野富太郎の自宅に出入りした。大学で植物学をやる予定が、マクロな環境や文明と、ミクロな野鳥や鉄条網や砂の変化のあいだをつぶさに観察する記者、探究者になられた。新刊は『噴火と寒冷化の災害史』(角川新書)だ。

 

松岡校長は、セミの幼虫を羽化させたり、中学科学部でホコリの培養をしてみたりと、リケオ(理科少年)だった。ところが、知らないことに疑問を持って体験することと、理路整然と教えられることのギャップで、高校では生物以外面白くなくなってしまった。この隙間を埋めたのが本だった。やがて、科学者の見方のサイエンスを可視光にする、高木貞治や南部陽一郎や牧野富太郎のエッセイ・論文集『日本の科学精神』全5巻を編集された。

 

理化学研究所創立100周年を機にスタートした「科学道100冊」プロジェクトが、6年目を迎える。

旬のトピックなど三つの軸で選んだ「テーマ本」50冊と、時代を経ても古びない良書として選んだ「科学道クラシックス」50冊の合計100冊で構成した「科学道100冊 2022」を11月後半に発表する予定だ。

 

選書だけではなく、ブックレットや展示ツールも制作し、これまで500箇所をこえる全国の学校、図書館、書店に「科学道100冊」の特設棚を編集してもらう仕組みも構築してきた。ジュニア版は親子でも楽しめる。

 

まもなく、フェアや展示を開催したい団体さま向けに、先行予約をスタートする。本という情報パッケージが記憶し届けつづけている、科学者の生き方や考え方、科学の見方を、「科学道100冊」をきっかけに共読していただきたい。

 

[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//

  • 橋本英人

    函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。

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コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025