おかかおにぎりさん(40代女性・主婦)のご相談:
長女(7)に、グリム童話などさまざまなお話を読み聞かせています。物語の冒頭で「ねえ、びんぼうってなに?」「ままははってなに?」「ままこって?」と尋ねられます。その時、自分がとっさに正しい説明をできているのか? ザワザワします。また、ラストでは「王様は、(冒険から戻ってきた)男に一番美しいむすめを与えました」といったフレーズがでてきたりしてモヤモヤします。自分が読んで育ったので、読ませたいと思っていましたが、悩むようになりました。しかしすたれてしまうのも惜しいような気がします。
サッショー・ミヤコがお応えします
継母の継子いじめの物語として名高い『白雪姫』や『ヘンゼルとグレーテル』 ですが、グリム兄弟の収集した「民話」では実母の子殺し、子捨ての物語だったことはつとに指摘されていることです。初稿から「定本」に至るまでの間に 市民社会の「教育的配慮」に適合するよう、何度かの書き換えを経たのだと言います。ああ、「教育的配慮」の5文字の下、いかにコンヴィヴィアルな知恵の多くが葬り去られてきたことでしょうか。とはいえ、悪いのは「教育的配慮」 だけではありません。「I am a woman in love」の6ワードによっても、八百屋お七の火つけ、ジュリエットの服毒、清姫の蛇体による追跡など、さまざまな愚行・蛮行がくり返されてもきました。
おかかおにぎりさんのお悩みは、「自分がこどもの頃に受け取った体験をわが子に(引いてはその次の世代に)伝えたい」という「類」としてのおもいと、 「でも大人になった自分は、ここに毒が仕込まれていると学んでしまった」と いう個としての逡巡とのせめぎ合いであろうかと考えます。また、人類が長くあえいできた「飢餓」の状況を現在の自分たちは免れていることに対するちょっとした贖罪感もあるようですね。しかしながら、人間、一寸先は闇です。こ の先100年のことはわかりませんし、子供の全生涯を守ってやることもできま せん。であれば「毒にも薬にもならない」凡作を100冊読ませるよりも、毒入り林檎をちぎっては投げてみたり、噛んでは含めさせたりして、本人の選球眼 や免疫を自主的に高めさせてあげるのが、真に子思いの母ではないでしょうか。
そこで、この春に千夜千冊されたカート・ヴォネガット・ジュニアの「この一冊」です。
千悩千冊0001夜
カート・ヴォネガット・ジュニア
『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
早川書房
ほかの生物が精神テレパシーの代りにコトバを使いたがるのは、コトバを使うともっとたくさんのことができるのに彼らが気づいたからだ。
コトバは彼らをはるかに活動的にする。精神テレパシーだと、みんながつねにあらゆることをみんなに伝えているため、すべての情報に対して一種の全体的な冷淡さが生まれる。
だがコトバは、狭い意味をゆっくりとしか伝えないために、一度に一つのことだけを考えることが──大きな計画に対して思考を進めることが──可能になる。
ヴォネガットは「愛は負けても、親切は勝つ」ということを本気で広めようとしていました。抹香臭くいうと、「愛もまた煩悩」なわけですよね。
時には空襲の下、時には母のない子のように。サッショーみやこ、12歳からずっと「ままこ」、おかげで大人の別離を味合わずに済みまする。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
例えば「一番美しい娘を与えた」といった記述には、その昔女性は交換物であった、という事実が隠されているわけですね。
わたしでしたら、
「びんぼう」→「お金がなくて困っている状態」
「まま母」→「父親の再婚相手の女性」
「まま子」→「その子供」
と、プロトタイプ的な表現で、躊躇なく説明するでしょう。そして、こどもの表情をちらちらと伺ったりする。まー、駆け引きみたいなものですね。
毒を食わせ生き延びる術を伝えようとするサッショーと、子供に対してすら商売人のごとく様子をうかがうシーザーでした。
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井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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