ぶるちゃんさん(40代男性・会社員)のご相談:
駅の立ち食い月見そばで悩んでいます。生卵はうれしいトッピングですが、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてしまうと汁の間で拡散してしまいます。仕方がないので丼のふちに口をつけて「つるん」とすすっていますが、それでしたら生卵を別に頼んですすればいいだけだと思うのです。「月見そば」というからには、お月さまのような卵は必要不可欠と思いますが、どうしたらいいのでしょうか?
サッショー・ミヤコがお応えします
「月見そば」の名を聞いた3~4歳の頃、とても憧れました。現物に初めて出くわしたときには、ぶるちゃんさん同様裏切られたような気がしたものです。「お月さま」は自分の後をいつまでもついてきてくれるはずなのに、食べるとなくなってしまうからです。多くの人に似たような体験があると思いますが、その後の度重なる「月見そば」体験によって、ほとんどの人は諦念に至るものですね。
ぶるちゃんさんの場合は、「月見そば」問題について一体何年悩みつづけてこられたのでしょうか。「幼な心」をしっかり胸に抱くといっても、長すぎるのではないでしょうか?ぶるちゃんさんにはこの一冊です。
千悩千冊0005夜
ニコラス・シェイクスピア
『ブルース・チャトウィン』(KADOKAWA)
千夜千冊では『ウッツ男爵』が取り上げられ、ペダントリーによる「知」と「香り」と「諧謔」の繋ぎ手として称揚されているブルース・チャトウィン。彼にとってエイズで亡くなったことは「表の顔」であり、本書では到底関係者のいる間は明かせなかった赤裸々な「裏の顔」が900頁近く(邦訳)に詰め込まれている
といいます。旺盛な好奇心も旅好きも美意識の高さも、すべては「幼な心」を保ちつづけた結果と考えると、合点がいきそうです。日本には来てないようですが、「月見そば」の感想も聞いてみたかった通人。
自立しない男より自立する本のほうが骨がある
◉井ノ上シーザー DUST EYE
月見そばの卵をどう処理するか。
つまるところ、あなたが何に官能を覚えるかという点につきます。
黒っぽい汁を背景とし、ぐちゃぐちゃにした卵を金色のマントに見立ててみましょう。すると、黄金色のマントに包まれ、法悦の表情を浮かべた男女の姿が浮かびます。卵に箸を差し入れる時、あなたは次の絵画に表わされている法悦を代理体験することでしょう。
▲グスタフ・クリムト『接吻』。足元の金の装飾品が、不思議と蕎麦に見えてくる。
もしくは、生卵を啜って、50秒ほど口の中で泳がしてみる。
あなたは耐えられなくなって、生暖かい卵を口内で潰す。
生命の温もりと破壊を同時に味わった時、あなたはエクスタシーの瞬間に似た感触を覚えるのです。
どちらを選ぶかは、あなたの趣向次第です。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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