千悩千冊0006夜★サッショーしまっせ「憧れの人を諦めてから20年になります」40代女性より

2020/12/16(水)10:38
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土鍋ご飯さん(40代女性)のご相談:
20年前、理系で、学生ミュージカル劇団員で、家事もできる憧れの人がいましたが、好きな人にダラダラとしたところを見せられない、生活を共にするなんてできないと思い、何でも見せられる人と結婚しました。が、現在、夫があまりにもゴロゴロしている姿を見ると、別の方向で勇気を出したほうがよかったのかと考えます。みなさん、どうやってその「崖」を乗り越えるんでしょうか。

 

サッショー・ミヤコがお応えします

 

20年前だろうが30年前だろうが、憧れの人を憧れのまま思い返す女ごころ、切々と伝わります。水を差すわけではないですが、20年といえばふた昔。「ダラダラを見せ」られなかった彼も、「ゴロゴロしている」姿が目撃されるおじさんになってることは、まぁ火を見るより明らかです。それよりは、20年前の憧れの人→20年前の男→昔の男→むかし男と言い換えていきましょう。こうなると、読むべきものは一つしか思い浮かびません。

 

千悩千冊0006夜

岡野弘彦

『恋の王朝絵巻 伊勢物語』淡交社

 

『伊勢物語』といえば「むかし、をとこありけり」。「むかし男」といえば業平。おお、日本のいろごのみの理想形ですね。ご存じ折口信夫最後の弟子として臨終を看取られた岡野弘彦先生のご出身は伊勢・美杉村の神社。小学校5・6年生の頃、父上から『竹取物語』や『伊勢物語』を与えられたのだといいます。

そういうわけで本著は、70年もの間『伊勢物語』と親しんでこられた先生が、語句や歌の解説にとどまらず、「ものがたり」や「ことだま」、「よ」という音の日本人にとっての大切さなどを噛んで含めるように教えてくださる一冊となりました。居眠りしていた高校古典の授業を一気に取り返せます。まえがきで言われている通り「声に出して」原文と歌をお読みください。

 

   花たちばなの香をかげば むかしの人の袖の香ぞする

 

 

◉井ノ上シーザー DUST EYE

パートナーの選定には、対称か非対称か、という基準があると言えます。いわゆる”玉の輿””逆玉””トロフィーワイフ”などは、非対称性原理に則った結果です。
土鍋ご飯さんは、そういった「非対称性」に耐えられず、”ゆるゆる”という点で「対称的」なパートナーを選択する戦略を採用しました。

それはそれで、賢明な選択でした。

ですが、年を経て土鍋ご飯さんは、そういった均衡状態に倦んだのです。身勝手さに怒りさえ覚えますが、そのような業を背負っているのであれば、致し方ないでしょう。

 

では、どうするか。

例えば家事をしながらミュージカルをしてみてはいかがでしょうか。

 

そこで、二つの可能性が生じます。

今度はあなたに感化されたご主人が、家で歌い踊りだすかもしれません。
あなたは歌いながら人参を切る。ご主人はそんなあなたを抱えながら踊る。まさしく「崖」を越えた、新たなる対称的な夫婦関係の獲得です。

あるいは、ご主人はゴロゴロしながら冷ややかな目で見るだけかもしれない。それも、「崖」を飛び越えての新たなる非対称性の獲得です。

いずれにせよ、先には大いなる変化がありそうです。未知の領域、別様の可能性につき進む土鍋ご飯さんの門出を、応援いたします。

 

「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。

 


  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。