千悩千冊0013夜★「自分で見るのもこわい悪筆に悩んでいます」20代女性より

2021/02/15(月)10:49
img

ペン習字も果たせずさん(20代女性)のご相談:
悪筆です。自分の書いた字を見るのもこわく、仕事外で文字を書けなくなってしまったのですが、ノートをとれるようになりたいです。どうしたら手書きへの抵抗感を捨てられるでしょうか。

 

サッショー・ミヤコがお応えします

奇遇ですねぇ。わたしも悪筆に悩んできました。ウェブでなければ走り寄って、コロナでなければ肩を抱きたいです。まっすぐ書けないとか、難しいほどでっかい字になって普段書き慣れてないのがチョンバレだとか、メモした字が自分で読めないこともしょっちゅう。ついでに、さらさら図解ができないのにも、とことん悩まされました。字がヘタなだけでなく絵もヘタなんですねぇ、サッショーは。

「果たせず」さんのように20代で手を打とうとすればよかったのですが、無策のまま中年に至った頃、取引先の若いデザイナーのコたちがオフィスに筆や墨や半紙を持ち込んで、書の練習をしているのを見て、びっくりしました。こいつらは、絵が描けるのに字まで上手になろうとしてる! そして、二度びっくりしたのは「だって字は絵ですよ、おーとさん」という彼らのことばでした。字も絵も思うままに描きたくっていた自分は、どこへ行ってしまったんでしょうか。今回のアイキャッチに使わせてもらったいちのちゃん(4歳)の闊達さにあやかりたいと思いつつ、贈る本を選びました。

 

千悩千冊0013夜

篠田桃紅

『桃紅 私というひとり』世界文化社

 

 

桃紅さんが生まれたのは1913(大正2)年3月。『一〇三歳になってわかったこと』がベストセラーになって早6年、凛とした姿にふれ、居住まいを正す気になった人も多いと思います。本書は2000年に出版された「書くつもりはないのにできた『自伝』のようなもの」で、冬春夏秋4つの扉を開く文字は、冬:玄、春:青、夏:朱、秋:白です。写真も十分な数収められ、彼女の書こそ、まさに「字は絵」であることを伝えてくれます。多分それゆえ、20世紀日本での評価は海外での評価に及ばなかったのでしょう。文章もまた、教科書通りではない入りと止め、跳ねと払いの呼吸を伝えてくれます。一緒にがんばりましょうね。

 

◉井ノ上シーザー DUST EYE
グーグルで「石原慎太郎 悪筆」と検索してみましょう。凄惨なまでに悪筆の原稿が出てきます。出版社によっては石原慎太郎氏の原稿を解読する専門家がいたとか。もし、あなたがここまで悪筆ではなかったら「下には下がいる」と自分を慰めることができます。万が一、あなたの方が悪筆であれば「石原慎太郎氏の才能は、わたしよりも劣っている」と勘違いをすることができます。心持ち次第です。さらには、もしあなたがとても悪筆家には見えない空気をまとっているのであれば、そのギャップを魅力に転嫁することができます。「見た目は清楚、字は汚い」という女性に“ギャップ萌え”する人と、わたしは友達になりたいと思うのです。

 

「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。

 

 


  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。