千悩千冊0018夜★「口の悪い上司に悩んでいます」40代女性より

2021/04/12(月)10:01
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ごろごろソファさん(40代女性)のご相談:
口が悪い上司に悩んでいます。その人は九州地方出身のアラ還(ほかのみんながそうだと言いたいわけでは決してありません)で、「わたし口が悪いから」が口癖です。口癖というか、それを免罪符に、人が傷つくことや影での悪口、容姿や性格の批判などをします。聞いているだけでも辛く、耳が腐りそうです。自分が言われていなくても、そうやって自分の前で話す人は、わたしのことも「口悪く」話しているんだろうなぁと容易に想像でき(彼女にはその想像が及ばないようですが)、目眩すら覚えます。
仕事上、その人と話さないわけにはいきません。また、口が悪いという前置きを免罪符にするなという勇気もありません(査定に影響しそうです)。関係性があることを前提に、どうしたらよいでしょうか。

サッショー・ミヤコがお応えします

耳が腐りそうな罵詈雑言、困りましたねー。わたしは先日、このビルに気がついて腰を抜かしそうになってしまいました。これを見て「そうだ! 壁の色を変えよう!」と思う人、それに賛成する奥さん、いるんでしょうか?

さて、ワルクチというのは自分が率先して言っているときは爽快ですが、人から聞かされるとなかなか気分の悪いものです。だからきっと昔の人は「他人のふり見て、我がふり直せ」と言ったのでしょう。通常はそういう経緯をたどって、「表面的にホメてるようで、核心部分を完膚なきまでにクサす」論法とか、「どうでもいい一部を誇張してホメることで、その他の部分は取るところがないと言わんばかり」な態度、「ナントカさんもよくガンバッてるよねー…」と「…」を強調する話法など、それぞれに洗練されていくものですが、上司さんの場合は、「面前でさえ言わなければ何を言ってもいい」という結論に飛びついているようですね。お気持ち察します。

ただ、森会長のようにウケ狙いで途方もない失言をしていることに気づかない方は別として、たいていの人は自分がみっともないことを口走っていたり、そこまで言うつもりはなかったのに思わずはずみがついて飛ばしすぎてしまったことを心の一部では「悪い! ごめん!」と思っています。それがごろごろソファさんには「免罪符」と感じられる部分なのではないでしょうか。

千悩千冊0018夜
永六輔『悪党諸君』(幻冬舎文庫)

ヤコブ・ラズ『ヤクザの文化人類学』(岩波現代文庫)

溝口敦『暴力団』(新潮新書)

 

本は中身を読むものと思っている人が大半。でも、その本を読んでいるあなたと対面している人の目にはカバーが移ります。つまり、本は「読む」だけでなく「読ませる」という役立て方もあることをご紹介したいと感じました。やり方は簡単。その人がブツブツ言いだしたら、こちらはふところからドスを出すように『ヤクザの文化人類学』(の本をタイトルがしっかり見えるように開いて読書)! 相手の雑言が佳境に達したところで、いよいよ堪忍も限界にきた高倉健よろしく『悪党諸君』! 決めゼリフの「わたし口が悪いから」が聞こえてきたら、走り寄って行ってでも『暴力団』。これを「目に物見せてくれる読書」術と名付けましょう。

 

◉井ノ上シーザー DUST EYE
「うるさい相手を黙らせる音響器具」があります。それは、黙らせたい相手の口元に向けてトリガーを引くと、相手の声を拾って0.2秒ほど後にスピーカーから音声を流す機械です。相手は自分の発言に混乱して黙ります。製品の名は「スピーチジャマー(Speech Jammer)」といい、10年程前に「イグ・ノーベル賞」を受賞しました。
“スピーチジャマー”を使えば「わたしは口が悪いから」という耳障りな言い訳は聞こえなくなるでしょうが、もっと手のこんだことをするのもいいですね。職場の方すべてがギリシャ劇の合唱隊(コロス)と化して、「わたしが口が悪いから」という発言を、職場全員で復唱するのです。コロスは「感情の無い台詞を言う生きた風景」とも定義されています。自分の吐いた毒な言葉を“感情の無い風景”から復唱されると、とてもいたたまれなくなり、黙りこくるのではないでしょうか。

 

「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。

 

 

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025