発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

間寅辰さん(20代・男性)のご相談:
タイピングに関するご相談です。
前々から、いわゆる「ブラインドタッチ」なるものを身につけたいと思ってきたのですが、それを練習する機会を失してきました。親指・人差し指・中指の三本だけで、キーボードを打っています(たとえばエンターキーは中指で打っているように思います)。ポッチのある定位置に手を戻すという習慣さえ身についていません。
とはいえ、ものすごく打つのが遅いというわけでもなく、これでも何とかやりくりできているのですが、指の使い方が偏っているがゆえに肩のあたりがヘンなふうに凝るのではないかと疑っています。加えて、先日の感門之盟でzoom担当をされていた皆さんの軽やかなタイピングを目にし、もう一度トライしてみたくなりました。「えっ、デジタル世代なのに…」と言われる状態からもいい加減抜け出したいとも思っています(むろんタイピングの型が身についただけで機械に強くなれるわけではありませんが)。
そんならつべこべ言わず練習しろよ!という話でしかないといえばそうなのですが、しかし、以前一度練習を試みたとき、我流と正当のはざまで超スロータイピングな期間が生まれてしまって、仕事の文書などが気合いで何とかなったとしても、イシスの師範代ロールを担う際にこのスピードだったらいくら時間があっても足りない…という恐怖に駆られ、やめてしまいました。
型を身につける過程での不自由を乗り越えることで、これまでとは異なる自由が得られる、したがっていっときの不自由には多少なりとも耐えねばならない…とは分かっているつもりですが、その不自由期間、人様に迷惑をかけるのはなあという逡巡もあって、タイピング稽古の機会を逃しています。
イシスのロールがお休みの期間を狙って練習する以外に、解決の方途はないのでしょうか。
サッショー・ミヤコがお応えします
「型」を使おうと使うまいと、一度に押せるキーは原則1個(シフト+とかオプションシフト+は例外として)です。間寅辰さんの長文なお悩みは、「ブラインドタッチへのあこがれ」「肩こりからの脱却」を願う気持ちと「練習中のスローな期間が耐えられない」「その間、人様に迷惑をかけられない」という気持ちのダブルバインドなわけですが、練習すればできるのがわかっているのに「しない」のは「今のままでも不自由してない」からでもありますよね。つまり、この長い長い悩みって、「人様」「イシスのロール」云々をマスクしてみると、「もっとカッコよくなりたい」という前向きさと「もっとカッコ悪くなるかも」という後ろ向きな恐れで、アクセルとブレーキを同時に踏んでるようです。あちゃー。
でも、三本指奏法、かっこいいじゃないですか。きっとこれからのトレンドになりますよ。えっ、口先だけの慰めにしか聞こえませんか? では、もう一つ。キーボードの配置は英文入力用に配置されているので、ブラインドタッチで日本語をローマ字入力していると、左手よりも右手がだいぶ疲れることになっています。だって、左側に「えあ」右側に「うおい」がありますからね。さらにマウスを右手で操作する右利きの人は、どうしたって右肩がバリバリになることになっているのです。つまり、タイピングの型を覚えれば肩こりが解消されるというのは、誤解です。
千悩千冊0021夜
フランソワ・ヌーデルマン、橘明美訳
『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』(太田出版)
同じキーボードで悩むなら、ピアノを練習されることを心よりお勧めします。本書は千夜千冊(1597夜)もされましたが、ピアノというのは「白か黒か」そのものなので、ミスタッチがタイプミスどころでない痛みを与えてくれます。弾き直しの連続が教えてくれるのが、「アリュール」(様子、物腰、振る舞い、行動、態度、速さ、歩調など)ではないかと思うぐらいです。音色、リズム、タッチを知ることは、イシスのさまざまなロールにも新しい響きを付け加えてくれるはずですよ。
…と書いてきて、もし間寅辰さんがすでに熟達したピアニストだったらどうしようという疑問も浮かんできましたが…その場合は『グラモフォン・フィルム・タイプライター』フリードリヒ・キットラー/ちくま文庫(上下)を読んでタイピングにいそしまれることを願います。「遊ぶなら老荘俳諧。迷ったときの禅とバロック」。手も足も出さないか、バッハを弾きこなすか、ってことですね。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
やはり、「肩こり我慢して今のタッチのまま」か、「面倒な訓練を我慢してブラインドタッチを習得」か、どちらかでいくか腹をくくるだけではないのでしょうか。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。