【工作舎×多読ジム】大人と子どもの虫本ばなし(松井路代)

2022/11/13(日)08:02
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多読ジム出版社コラボ企画第二弾は工作舎! お題本はメーテルリンク『ガラス蜘蛛』、福井栄一『蟲虫双紙』、桃山鈴子『わたしはイモムシ』。佐藤裕子、高宮光江、中原洋子、畑本浩伸、佐藤健太郎、浦澤美穂、大沼友紀、小路千広、松井路代が、お題本をキーブックに、三冊の本をつないでエッセイを書く「三冊筋プレス」に挑戦する。優秀賞の賞品『遊1001 相似律』はいったい誰が手にするのか…。

 

SUMMARY


 ちょっと昔のわたしたちは、小さきものが好きだった。見出された物語や仮説は、おしゃべりの中に生まれ、口承によって広まった。一部は文字でも書き記された。
 小さきものの代表が虫である。『蟲虫双紙 ちいさなイノチのファンタジア』は、奈良時代から明治中期までのさまざまな本から、虫にまつわる一節を取り出した「虫の話の標本箱」だ。出典は「耳嚢」「発心集」「甲子夜話」など。上方文化評論家である福井栄一の現代語訳のホドがよく、装幀も手になじむ。
 江戸時代は「百物語」のように、小さなお話を持ち寄って、語りを楽しむ遊びも盛んに行われた。杉浦日向子の漫画で、タイムスリップしたかように体感できる。
 時代は移り、生き物の言葉や「ほんと」と「つもり」の間の話をゆっくり聞ける人が少なくなってきた。工藤直子の『のはらうた』のような詩の世界には、かすかに残っている。幼い子と一緒に遊びながら読みたい。


 

◆本の話

我が家ではたいてい唐突に本の話が始まる。

 

母:最近、おもしろい本買ってん。
『蟲虫双紙』っていう虫の本。奈良時代から明治時代ぐらいまでのいろんな本から、虫についてのエピソードを選んで、現代語訳してくれてんねん。
 目次見てみて。無脚、四脚、六脚、多脚っていう章立てがいいでしょう。

 

長男:昆虫じゃないのもはいってるんやね。

 

母:そうそう、少し昔の日本では<ムシ>っていうのは今よりも意味が広かったみたい。四脚っていうのはカエルやヤモリのこと。表紙の絵は、「虫売り」。大正時代の葉書かららしい。

 

長男:これ、虫かごなんや。いろんな形がある。

 

母:看板がなぞかけになってる。何かわかる?

 

 

長男:松の絵、ということはマツムシ?

 

母:そう。虫売りの顔が隠れているのも洒落てると思う。本のデザインもいい。

 

長男:タイトルの字が金色や。

 

妻:開くと濃い緑色の紙が見返しが二枚挟まってる。緑と金の組み合わせって、金閣寺っぽくない?
 それと、黄緑色の紐の栞が太くて存在感あるでしょ。

 

長男:ほんとだ。

 長男14歳、中学校の授業を受けずに育っていて、本が学びの窓になっている。母からすれば、さまざまな著者たちに育ててもらっているようなものである。

 

◆自然発生説

母:三十六の虫のうち、一番最初に出てくるのが蛞蝓(ナメクジ)。柿の種が蛞蝓になりかかってるっていう話が書いてある。

 

長男:ほんま?

 

母:麦が蝶になり、馬糞が蜂になるともある。「化生」っていう。そういえばウナギの本を読んだときに、アリストテレスが「ウナギは泥から生まれる」と書いてたって出てきた。西洋の人も古代は似たことを考えてたんだよ。

 

長男:自然発生説か。蛞蝓の卵は、庭で何回もみたことあるけどなあ。

 

母:透明のちっちゃい卵と茶色の蛞蝓が結びつくかどうか。柿の種のほうが見た目は近いかもしれない。

 

長男:卵は鉱物と思われたのかもしれないね。


◆漫画のルーツ、双紙

 母は、江戸時代の文化事情、読書事情に興味があり、大人になってもゆるゆる追い続けている。
 「双紙(草紙)」とは、かな書き、絵入りが特徴の、大衆向きの読み物であるが、絵はただの添え物ではなく隠れた意味が様々にこめられていることが多い。
 双紙の凄さについては、漫画家の杉浦日向子さんの本で知った。本棚を見ていると『百物語』が目に留まった。少し不思議な、いろいろな短いお話が集められているという点で『蟲虫双紙』と共通している。

 

母:江戸時代の遊びで、「百物語」って知ってる?

 

長男:百物語?

 

母:みんなで一話ずつ怪談を持ち寄る。一話ごとに蝋燭を立てていく。百本になると妖事が起こるとされ、九十九話で終わる習わしだったらしい。杉浦日向子さんの『百物語』は漫画やけど、「双紙」って漫画のルーツの一つやねんで。

 

長男:この本は、あんまり漫画っぽくないけど。

 

母:紙も上質だしね。スマホで漫画を読む時代に双紙を蘇らせようと思ったら、こういう編集になるのかもしれへんなあ。
 図版もいっぱい載っている。これは喜多川歌麿。美人画で知られてるけど、虫や花の絵も描いているんだよ。

 

◆上方の文化

母: この本を作った福井栄一さん、調べてみたらおもしろい人なんよ。

 

長男:有名な人?

 

母:関西のバラエティ番組にも出てはるから、見たことがあるかもしれへん。プロフィールには「上方文化評論家」と書かれてる。なんと世界で最初にそう名乗らはった人らしい。
 京大出て、銀行に勤めたけど、吉村流五世の上方舞を見て、翌日に仕事やめて文化に関わる活動を始めはった。もともと固い仕事したはったのにね。舞台のパワーってすごいねえ。

 

長男:上方って、京都とか大阪? 

 

母:そうそう。ここ奈良も広く言えば入る。江戸時代って名前ついてるけど、実は元禄年間ぐらいまでは文化の中心は上方のほうやった。

 

長男:今は関西の文化といえば「お笑い」かも。

 

母:そこはほんまに気になるね。  
工作舎は、東京の版元やね。もともと松岡正剛さんの『遊』を出していた、他にない出版社だけど、大阪の版元で出せへんかったのかと思うとちょっと切ないなあ。

 

◆小さきものの声

 小学生の長女を寝かせる時間となる。9歳だが、まだ寝る前に何か一緒に読む週間が続いている。虫モードなので、工藤直子さんの『のはらうた』を手に取った。
 かまきりりゅうじ、みのむしせつこ、みみずみつお。工藤さんに名前をもらった野原のみんなが、詩を語りだす。長女とどの詩が好きか、選び合いながら声に出して読む。
 子ども達が将来どんな本を読むようになるのかはわからない。今は、どんな小さなモノたちにも「ファンタジア」があること、耳をすませば物語が聞こえてくることを伝えておきたい。

 

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕

∈『蟲虫双紙 ちいさなイノチのファンタジア 』福井栄一/工作舎
∈『百物語』杉浦日向子/新潮文庫
∈『ポケットのはらうた』くどうなおこ/童話屋

 

⊕多読ジムSeason11・夏

∈選本テーマ:版元コラボエディストチャレンジ
∈スタジオみみっく(畑本浩伸冊師)


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。