【工作舎×多読ジム】蟲虫怪人狂想曲(佐藤裕子)

2022/11/05(土)08:57
img

多読ジム出版社コラボ企画第二弾は工作舎! お題本はメーテルリンク『ガラス蜘蛛』、福井栄一『蟲虫双紙』、桃山鈴子『わたしはイモムシ』。佐藤裕子、高宮光江、中原洋子、畑本浩伸、佐藤健太郎、浦澤美穂、大沼友紀、小路千広、松井路代が、お題本をキーブックに、三冊の本をつないでエッセイを書く「三冊筋プレス」に挑戦する。優秀賞の賞品『遊1001 相似律』はいったい誰が手にするのか…。

 

SUMMARY


 蟲虫たちは、美と政治と生活に密着し、媒介し、登場人物となって、古代から明治ころまでの文学を彩ってきた。それらを蒐集し、福井栄一氏が一冊に収めたものが『蟲虫双紙』である。日本の習俗のなかで、蟲虫は人間を襲う化け物となり、病気や死を招く呪詛のもとになることもあれば、体内成分による薬効も信じられていた。
 虫かごを飽くことなく覗いていられる日本の精神性は、古代の説話から、昭和メディアのヒーロー怪人にまで引き継がれている。秋の夜長に身体いっぱいに響かせる虫の声は、Jアラートなどが及ばないほどの緊急メッセージを伝えているのではないか。それは求愛か、威嚇か。昆虫の容貌をしたヒーローの変身ベルトに肖り、人間もメタモルフォーゼしなくてはならない。


 

◆抜き型で語る

 現代人の不幸は、美と政治と生活とがバラバラに切り離されていること──。上方文化評論家の福井栄一氏はこう訴え、自身のホームページでは数寄だけに留まらない世間の雑談を雅俗混淆で綴る。
 蟲虫たちは、美と政治と生活に密着し、媒介し、登場人物となって、古代から明治ころまでの文学を彩ってきた。それらを蒐集し、福井氏が一冊に収めたものが『蟲虫双紙』である。ここには、茶席の話題にはタブーと言われている「我が仏 隣の宝 婿しゅうと 天下のいくさ 人のよしあし」が赤裸々に語られている。現在なら、新宗教と政治権力、平和の祭典とカネ、隣国との領土問題。嫁姑の家庭内の領土争いでは見えないミサイルも飛ぶ。蟲虫を抜き型にして、それらを語ることはできるのか。


◆夜に化ける

 元禄の仮名草子に、諸国行脚の山伏が寺に一夜の宿を請い、大蜘蛛の化け物を退治する話がある。天井から伸びる毛むくじゃらの手を山伏は抜刀し、何度もすっぱり切り落とす様は不気味にして痛快だ。倒した相手に蜘蛛塚をつくっての供養も欠かさない。
 江戸時代は修験道が最も民衆の生活に密接に浸透していた時代だった。医療の行き届かない農村では山伏の祈祷がそれに替わるものであったし、講を結んでの山への参詣は庶民の大きな娯楽でもあった。『日本仏教史』で末木文美士氏は、仏教の実態は、例えば『日本霊異記』などを読んだほうがよほど生き生きと描かれていると言う。日本の習俗のなかで、蟲虫は人間を襲う化け物となり、病気や死を招く呪詛のもとになることもあれば、傷や病を治すの薬効も信じられていた。蟲虫は古来より生活の周辺に棲み、身近でありながら謎多き存在として、興味を覚えずにはおれないものだったのだろう。見えない蟲虫は夜に現われるのだ。


◆孤独なヒーロー

 仮面ライダーは断然「夜」の存在である。『怪獣はなぜ日本を襲うのか』で長山靖生氏はライダー論を進める。ちょっと不気味で後ろ暗い感じがつきまとうヒーローは、ショッカーと同類なのだ。ショッカー怪人のなかで、一際目立つ昆虫系怪人は、特に人類に対する異化作用を強調する存在だった。
 違和感・恐怖心・嫌悪感をもようさせるために機能した昆虫の容貌は、仮面ライダーでは孤独の象徴となった。ウルトラマンが蟻に似ており、集団生活を営む「社会」的存在であることに対し、仮面ライダーのバッタ的、トンボ的顔貌は一匹狼の象徴だという。怪人図鑑には蟲虫系が多い。蜘蛛男、イモリゲス、毛虫怪人ドクガンダーは幼虫バージョンと、成虫(蛾)バージョンがいる。昭和日本の高度経済成長期の影に潜む悪役たちだ。
 先述した蜘蛛塚しかり、『蟲虫双紙』には、幽冥化け物系蟲虫が多く登場する。寛文の仮名草子では、武将とその家臣団の亡魂が井守に変じて怪異が起こる。元禄には、法師が見初めた美童との、周囲に理解されぬ悲恋により双方とも病み臥して死んでしまい、法師の亡魂が毛虫と蛾になって、人々を襲う話が収められている。


◆変身ベルトはあるか

 日本人は昆虫に対して引き裂かれるアンヴィバレントな感情を内包していた。昆虫は生活感覚からいっても美的表現のなかでも花鳥風月並に親しい存在であった。虫かごを飽くことなく覗いていられる日本の精神性は、古代の説話から、昭和メディアのヒーロー怪人にまで引き継がれている。
 秋の夜長を鳴きとおす虫たちの声は、令和の私たちは聞こえるだろうか。身体いっぱいに響かせる虫の声は、Jアラートなどが及ばないほどの緊急メッセージを伝えているのではないか。それは求愛か、威嚇か。変身ベルトに肖り、人間もメタモルフォーゼしなくてはならない。

 

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕
 ∈『蟲虫双紙』福井栄一/工作舎
 ∈『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』長山靖生/筑摩書房
 ∈『日本仏教史』末木文美士/新潮文庫

 

⊕多読ジムSeason11・夏

∈選本テーマ:版元コラボエディストチャレンジ
∈スタジオNOTES(中原洋子冊師)


  • 佐藤裕子

    編集的先達:司馬遼太郎。剣道では幕末の千葉さな子に憧れ、箏曲は天璋院篤姫と同じ流派で名取り。方法日本と志士の魂をもつ立正佼成会の歩く核弾頭として、師範代時代は大政奉還指南や黒船来航指南、五箇条の御誓文指南を繰り出し、学匠を驚愕させる。

  • 【太田出版×多読ジム】二次元志向型女子へ(佐藤裕子)

    多読ジム出版社コラボ企画第一弾は太田出版! お題本は「それチン」こと、阿部洋一のマンガ『それはただの先輩のチンコ』! エディストチャレンジのエントリーメンバーは、石黒好美、植村真也、大沼友紀、佐藤裕子、鹿間朋子、高宮光江 […]