11月16日、物語講座・蒐譚場へむかう朝。ようやく新幹線「のぞみ」東京行きのシートに落ち着いた松井路代師範代はあることに気がついた。
さっき京都駅で買ったはずの、「とり松」のバラ寿司弁当が見当たらない。
鉄分不足を補うために牛肉弁当にすべきか、奈良の経済を活性化するために柿の葉寿司にすべきか、すべての役割を忘れて今この瞬間に食べたいものにするか、高速濃密に3分間悩んで決めたバラ寿司弁当である。
好物を選んだ興奮でお茶を買うのを忘れ、ホームに上がる直前にもう一度レジに並んだ。支払いの際にお弁当のほうを置き忘れたらしい。
たまたま山手線が開業以来初めて工事で止まる日で、普段より30分早い近鉄奈良駅発の特急に乗らなければならず、何も口にできないまま家を飛び出してきたのだった。
しかし、松井師範代は慌てふためいたり、過度に落胆したりはしなかった。娘は実家、息子は夫の家族に託し、三家族を騒がせての蒐譚場行き一泊旅の準備がめまぐるしく、無事、予定の新幹線に乗れただけでも、生きとし生けるもの全てに感謝の念を捧げる境地に達していた。
ホットのほうじ茶が手許にあるだけいい。ゆっくりとキャップを外し、一口飲み、ほっと息をついた。
車内販売のワゴンは、思いのほか、すぐに来た。
「東海道新幹線弁当お一つですね。1,000円になります」
京都駅に置き去りにしてしまったバラ寿司弁当に思いを馳せながら会計する。
すぐに食べるのはもったいない。アイフォンで一つ指南をしてからにしよう。
送信ボタンを押したのは名古屋を少し過ぎてからだった。カバンにスマホをしまい、おもむろに弁当のふたをあけた。
深川めし、穴子蒲焼、黒はんぺん、みそかつ、エビフライ。芋、タコ、南瓜の煮物。山手線が止まらなかったら出会わなかった東海道名物のおかずである。
松井師範代はソースのたっぷりかかったエビフライに箸をのばし、めったにないブランチを楽しみ始めた。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
イドバタイムズ issue.19 「お題をつくる」を日常する。子どもプランニングフィールドメンバー募集中
松岡校長が語る情報の構造とお題づくりの核心 第81回感門之盟・校長校話プログラムの後半、話題は編集稽古の「お題」がつくられたプロセスにむかった。 野嶋真帆番匠が「人の認知のしくみを生かしたお題に驚いた」と語ると、松 […]
編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。 知ってると知らないのアイダ 新しい千夜千冊エディション『源氏と漱石』、9歳の長女にまず見せてみたいと思った。ごく小さい […]
「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、 「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。 […]
【Archive】編集かあさんコレクション「月日星々」2023/2/15更新
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る、編集かあさんシリーズ。 庭で、街で、部屋で、本棚の前で、 子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。 2023年2月16日更新 【Arch […]
「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、 「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。 […]