45[守]新師範 平野しのぶが傾ける蕩尽とは

2020/04/04(土)13:13
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 高層ホテル最上階の窓越しで月が鈍く輝いていた。

 2020年3月11日の夜、平野しのぶ(45[守]師範)と井ノ上裕二([守]師範)はステーキ用鉄板を目の前にしていた。両人ともミディアムレアのヒレステーキをオーダーする。

 

 オポチュニティ・ファンドを生業とする平野は”Capex Queen”と呼ばれていたこともある。Capexとは「資本的価値投資」のことだ。オフィスビルを商業施設にした。ビルごと用途を変えた。法に抵触しない限りカネを使いまくっていた。

 

 平野は語る。
 「大事なことは本質を極めること。世の中カネじゃないけどなにかを回すためにはカネが必要」。

 メルローの赤ワインが進む。平野は追加でヒレを、井ノ上はサーロインを焼いてもらう。

 

 平野は語り続ける。
 「常に真剣を振り回して生きてきた。好きは“数寄”で生きている。数寄の中にはカネも入っている」。「名誉はいらない。肯定は欲しいけどね」。

 

 平野はアートを愛している。石垣島で開催した映画祭を盛り上げもした。前夫のスペイン系アメリカ人とはサルサを踊る夫婦だった。ラテン気質な平野である。

 

 ワインをカベルネ・ソーヴィニヨンにする。
 スーザン・ソンタグに憧れた。ソンタグを通じて松岡正剛を知った。イシス編集学校と出会った。知的方面でも平野の進撃は止まらない。

 

 

(セイゴオポーズをとる平野師範)

 


 「編集学校のロールって金にならんわなぁ」。井ノ上がわざと水をむける。
 「でも編集学校にはなにかがある」。平野がこたえる。

 

 平野にとって不動産開発もアートも映画も編集も「なにか」だ。「なにか」に向けて平野は情熱を蕩尽する。

 

 一年前、平野は42[守]発酵エピクロス教室の師範代だった。担当師範であった井ノ上は速度と勢いのある指南に舌を巻いていた。そんな平野が45[守]の師範デビューをまもなく飾る。
井ノ上は異能師範ぶりに期待をかけている。

 

 二十三時過ぎに区切りをつけ二人は解散した。満月を取り巻く靄(もや)は砂金の輝きを放っていた。

 

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。