夏草やガングロどもが夢の跡 DUSTYなLADYの怪進撃【ツアー@東北】

2021/02/10(水)20:00
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ロクシタンハンドクリームを手に、黒髪で色白の女性が自己紹介を始めた。

 

深谷幸子が、未知奥エディットツアー(21年2月8日)に現れた。46[守]かりぐらジョジョ教室学衆として、師範の井ノ上に誘われての参加だ。深谷はライター・編集業に就き、技術を上げるために編集学校の門を叩いた。その編集稽古ぶりは熱心かつ謙虚だ。だが、井ノ上にはある疑念が働き始めていた。「この人、DUSTYじゃね?」。その可能性は、未知奥エディットツアーで存分に発露したのであった。

 

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松尾芭蕉の俳句を題材とした編集ワークショップが始まった。

 

   ◎俳聖芭蕉: 夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡

 

各参加者は「本歌取り」による意味の拡張を試みた。芭蕉の名句を深谷はこのよう編集した。

 

   ◎深谷幸子: 夏草やつわものどもが足の跡
          夏草やつわものどもが友の跡
          夏草やガングロどもが夢の跡
          夏草やつわものどもが墓の跡

 

深谷にとっての「つわもの」とは、「ガングロ」「ヤンキー」らしい。「墓の跡」とは、穏やかではない。深谷の高校時代はどのようなものだったのか。彼女の怪進撃は続く。

 

   ◎俳聖芭蕉: 閑さ(しずかさ)や岩にしみ入る蝉の声
   ◎深谷幸子: 岩のなか静かに隠す100万円

 

100万円を岩の中にこっそりと隠すとは、大いなる「悪」だ。深谷は、いったい何を見たのか。もしくはしたのか。「ガングロ」に触発されて、場が乱調していく。深谷は触媒としてDUSTYな場の空気を生み出す。

 

   ◎相内洋輔: 夏草やヤンキーどもの煙の跡
          岩に住む蝉の怪人爆発だ
          ガングロで肌にしみ入り目は涙
   ◎有我渉 : しすかさや目玉にしみいる蝉の尿
          枯れ草や女房殿のしわの跡
   ◎浦野裕 : 夏バテやつわものどもとゲロの跡
          夏休みつわりの元は浮気の後
          性春や家族の居ぬまに大音量
          銃の音セミをかきけす人の悲鳴

 

哀切の相内が、ペーソスの有我が、確信犯の浦野が、言葉をひねり紡ぐ。

 

 

▲浦野の「性春」。浦野得意の「内角エグ目の玉」が、さく裂した。

 

   ◎田中睦 : 夏草やせいじかどもが夢の跡

 

46[守]師範代の田中睦も負けない。「せいじかども」が、なんともキツい。

 

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90分が経ち、各自が締めの句を披露した。

 

   ◎深谷幸子: 行く春やつわものどもとガレキ跡

 

解釈は「春の卒業の時、ヤンキーと悪事は瓦礫のように積もっている」ということであった。ガングロで始まり、ヤンキーの結末で締める深谷。井ノ上が「ガングロは、高校時代の深谷さんだったのですね」と向けると「いいえ。でも、あの時代はガングロが身の回りにいました」と静かに答えた。

 

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一応は身を引いたが、井ノ上はある情報に着目している。それは、深谷がヤンキーの産地で有名な、北関東某県出身であるということだ。
青春のガレキを後にした深谷は、ガングロを落とし、ロクシタンハンドクリームで肌を癒しているのではないか。
昨日、深谷は教室の勧学会でこのような句を披露した。

 

   ◎深谷幸子: 岩のなか静かに隠す赤っ恥

 

深谷の偉大とは、「俳句について知識はありません」といいながらも、抜け目なく自家薬籠中の物としている点にある。
深谷はDUSTライターを目指している。DUSTは、人間の業を肯定する。韜晦を超越した深谷の記事を、時代は待望している。

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025