「明日はお好きな場所、時間でいいですよ。なにかご希望は。」
迫村勝(師範・サイエンティスト)からのメールに、井ノ上裕二(師範・会社員)は「お任せします」と返事をした。
長い海外生活を終えた井ノ上が、真っ先に連絡をした先が迫村だった。
井ノ上からの会食の申し入れを、迫村はいつも快く受け入れる。
十年以上前、[破]で井ノ上は学衆として、迫村師範代に師事をしていた。
つき合いは長い。最近は面会の頻度が上がっている。
この間に迫村は白髪となり、井ノ上の顔にはしわが増えた。
20年1月25日の夕方、井ノ上と迫村は神田駅で落ちあう。
「今回はモンゴル料理にします」と、迫村は笑みを浮かべる。
店選び一つとっても、迫村は思いもがけない展開をもたらす(『神田らしい料理で サイエンティスト・迫村勝の回答(前編)』参照)。
「モンゴル料理といいながらも、日本風になっています。編集ですよね」。
「編集」という言葉の安直な持ち出し方が、井ノ上には気になる。
到着すると、それはモンゴル料理店ではなく、ジンギスカン焼き肉店であった。
迫村の微妙なズレ具合が、井ノ上には楽しい。
席に着くや「編集って何でしょう」と迫村が井ノ上に質問をする。
迫村は編集学校の大ベテランであるのだが。経緯はこうだった。
大学の研究室の引っ越しで、一時的にかれの蔵書は本棚から引き出され、箱詰めになっている。
大部の千夜千冊全集も、段ボール箱のなかで眠っている。
迫村は本棚の背表紙を眺めることで、情報を構造化していた。それが一時的にせよ失われることで“編集”というものの輪郭がぼやけた。
迫村の不可解な質問は、そこから生じた。
議論は電子書籍の課題へと展開する。「電子書籍は本棚を構築できない」ことが気になる。
食とビールが進む。
「最近、面白いことはありましたか」。井ノ上が尋ねる。
迫村は「信じるか信じないかはあなた次第です」の人との接触を語る。
都市伝説には怪しい情報があるが、嘘とも言い切れない事象もある。
井ノ上は、田中宇や副島隆彦の国際的陰謀ネタを持ち出す。
世の中は陰謀で支配されているのかもしれないし、陰謀からの逸脱が、結果的に世界を動かしているのかもしれない。
嘘と真実、ツモリとホントの境界を行き来しつつ、二人は肉を焼く。
冷酒を入れる。
編集学校の昔話をするが、名前が思い出せずに対話が中断する。
迫村がおちょこをひっくり返す。テーブルに酒が飛び散る。
「それは、脂身ですよ」と、迫村が箸でつまんだものを、井ノ上が指さす。
「いや、ジャガイモです。脂をたっぷり吸いこんでますけどね」と、迫村は得体のしれないものを口に運ぶ。
真冬の冷酒は、脂身とジャガイモの区別を失わせる。
ろれつが回らなくなる。会話は途切れない。
「世の中がテンプレート化しており、情報をテンプレートに当てはめて事足れりとする風潮がある」と、迫村。
「編集稽古の『型』とは、その用い方によって、自分の意味の半径を思いもがけない方向に広げるのではないか」と、井ノ上。
「編集学校の発足当時、Eラーニングはとてつもなく斬新でした」。
迫村によると、メールのやり取りで世の中を変えるぐらいの熱気があったらしい。今や、編集学校のテキストベースのやりとりは、アナログな方法だ。
それが致命的な欠陥であるとも言い切れない。
二人の議論には決着はつかない。それをよしとしている。話はえんえんと続く。
店のスタッフに写真撮影をお願いする。二人で松岡正剛のポーズをとる。
四時間が経つ。
井ノ上は記事執筆のために、対話についての事実確認を行う。
迫村は「仕事をしてるねー」と、笑みを浮かべた。迫村にとって、井ノ上は熱心な編集学校関係者に見える。
オカルトとサイエンス、都市伝説と現実といった虚実の間を行き来する迫村は、超然としている。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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