【三”曲”筋プレス!?】「ヨットロック」プレイクエスト(大沼友紀)

2022/04/29(金)10:00
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◉[序の序] イシスのトキワ荘?

 多読ジムSeason9 が終了して3日後。「ご自身が書き上げた三冊筋プレスを、さらに推敲して遊刊エディストに掲載しませんか?」とお誘いがあった。
 ホイホイと多読エディストラウンジに来てみたら、十数名が横並びでバリバリ推敲する、まさに「トキワ荘」かと見間違える環境だった。
 拙文「【三冊筋プレス】ココロの隠し立ては青いふところ(大沼友紀)」の推敲をすすめる最中に「ご自身のすすめる『ヨットロック』のプレイリストをInfo(追加情報)としてつけてもいいですね」とアドバイスを頂く。
 とはいえ、単なるプレイリストは面白くない、と天邪鬼に構想試作してみるうちに「三冊筋プレスの形式で書けるのでは?」と気づく。
 ここに、三冊筋のスピンオフ版「三曲筋プレス」がうまれました。


◉[序] 「ヨットロック」のらしさ 

 「ヨットロック」は、柔らかいジャンルだ。
 ヨットロックっぽいR&B を「ヨットソウル」と呼んだり、ヨットロックぽいけど若干異なるものも「ニャットロック(Nyacht Rock)」と呼んで傍らに置いておく。ふところが深い。あるいは、ぬるい。
 ヨットロックの楽曲から3曲を選んで、それぞれに関係する3曲(ヨットロックでないものもあるが)をクエストしてみる。


◉楽曲をまねぶ 「愛ある限り」/キャプテン&テニール(*1)

 ダリル・ドラゴンとテニ・トニール夫妻の男女デュオキャプテン&テニールが1975年にリリースした「愛ある限り」。この曲にインスパイアされなければ、マイケル・マクドナルドが1979年に発表したドゥービー・ブラザーズの「ある愚か者の場合」(*2)がうまれなかった。
「知ってるかい、ダリル、きみはぼくが<ホワット・ア・フール・ビリーヴス>を書くきっかけになった男なんだ。ほら、<愛ある限り>と感じが似てるだろ?」と言っていたよ、と書籍『ヨット・ロック』で、ダリルはマイケルに会ったときのことを話している。
 「愛ある限り」は実はカバーソング。原曲はニール・セダカが1973年にリリース(*3)している。さらに、この曲にも元となる楽曲がある。ビーチ・ボーイズが1968年に発表した「ドゥ・イット・アゲイン」(*4)からインスパイアされたものだ、とニール自身がコメントしている。

 真に独自性のあるものは「いかに真似されやすいか」なのだ。

アルバムリスト:
*1「愛ある限り(Love Will Keep Us Together)」/キャプテン&テニール(Captain & Tennille)のファーストアルバム。
*2「ミニット・バイ・ミニット(Minute By Minute)」/ドゥービー・ブラザーズ(Doobie Brothers )。「ある愚か者の場合(What A Fool Believes)」を収録。
*3「The Tra-La Days Are Over」/ニール・セダカ(Neil Sedaka )。「愛ある限り」を収録。ヨットロックではない。
*4「20/20 」/ビーチ・ボーイズ(Beach Boys)。「ドゥ・イット・アゲイン(Do It Again )」を収録。ヨットロックではない。

 

◉別カルチャーと遊ぶ 「ジョジョ」/ボズ・スキャッグス(*5)

 『ジョジョの奇妙な冒険』は、登場人物名や彼らの使う能力(スタンド)の名称などをバンドやミュージシャン名、楽曲名をもとにして数多くつけている。ヨットロックでの例をあげると、第3部に登場する敵の1人「スティーリー・ダン」(*6)が、能力名に第7部の主人公の1人ジョジョのスタンド「タスク」(*7)がある。
 まさにタイトルにも主人公の愛称にも含まれているのが、1980年にリリースしたボズ・スキャッグスの「ジョジョ」。
 「ジョジョ」の由来は、ビートルズの「ゲット・バック」(*8)の歌詞から引用している。作者の荒木飛呂彦と大槻ケンヂとの対談に記録がある。この歌詞のジョジョはジョン・レノンだ、という説もある。
 第6部の冒頭で、主人公(空条徐倫)は無実の罪を被せられるが、その罠をかけたのは彼女の恋人だった。ボズの曲の歌詞にあらわれるジョジョは、金持ちで優男で女ころがし(娼婦の元締めとも)。やんわりイメージが重なる。

 ところで、ボズは「自分の音楽をヨットロックに当てはめられることが大嫌いだね」とコメントしている。

アルバムリスト:
*5「ミドル・マン(Middle Man)」/ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)。「ジョジョ(Jojo)」を収録。
*6「ガウチョ(Gaucho)」/スティーリー・ダン(Steely Dan)。登場人物が使用するスタンド名「恋人(ラバーズ)」を連想させるジャケット。
*7「タスク(Task)」/フリートウッド・マック(Fleetwood Mac )。結成当初はずぶずぶのブルースだった。徐々に転身して本作はヨットロック。
*8「レット・イット・ビー(Let It Be )」/ビートルズ。「ゲット・バック(Get Back)」を収録。ヨットロックではない。

 

◉歴史をたばねる 「ヒューマン・ネイチャー」/マイケル・ジャクソン(*9)

 キング・オブ・ポップのマイケル・ジャクソンとヨットロックの歴史を並べてみると興味深い。

1963年

マイケル、ジャクソン5に加入。

1969年

ジャクソン5、モータウンからアルバム「帰ってほしいの」*10でメジャーデビュー。

1972年

モータウンがデトロイトからLAに拠点を移す。これにより、ヨットロックを生む礎ができる。
1976年

ボズ・スキャッグスのアルバム「シルク・ディグリース」*11に参加したスタジオ・ミュージシャン3人を中心として、TOTOを結成。

1983年

「聖なる剣」/TOTO*12がグラミー賞最優秀アルバム賞を獲得。「ヒューマン・ネイチャー」はTOTOのメンバーが作曲し、レコーディングもスタジオミュージシャンとしてサポートする。
1984年

「スリラー」/マイケル・ジャクソンがグラミー賞最優秀アルバム賞を獲得。

 

2005年

ドラマ『ヨット・ロック』配信。とりわけマイケルと「スリラー」をネタにした第5話が好評であった。
2009年

マイケル死去。
2010年

ディスコ~ブギーリバイバル。

 マイケルの死去により、改めて何度も彼の曲を聞く旧リスナーだけでなく、新しいリスナーも増えた。このことは、ヨットロック復活の遠縁であるように思える。

アルバムリスト:
*9「スリラー(Thriller)」/マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)。「ヒューマン・ネイチャー(Human Nature)」を収録。
*10「帰ってほしいの(Diana Ross Presents TheJackson 5 )」/ジャクソン5。ヨットロックではない。
*11「シルク・ディグリース(Silk Degrees)」/ボズ・スキャッグス。ボズの代表曲の1つ「ウィ・アー・オール・アローン(We’re All Alone)」収録。
*12「聖なる剣(Toto IV )」/TOTO。収録曲「アフリカ(Africa)」は全米シングル1位だが、ウィーザー(Weezer)が2018年にカバーした曲も全米1位になる。

 

Info


⊕多読ジム Season09・冬⊕

∈選本テーマ:青の三冊
∈スタジオゆむかちゅん(渡會眞澄冊師)
∈3曲の関係性(編集思考素):三位一体型

「愛ある限り(Love Will Keep Us Together)」/キャプテン&テニール(Captain & Tennille)

「ジョジョ(Jojo)」/ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)
「ヒューマン・ネイチャー(Human Nature)」/マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)

 

      「生命に学ぶ」
         ↓
      【楽曲にまねぶ】
        ・  ・
       ・    ・    
【歴史をたばねる】・・【別カルチャーと遊ぶ】
    ↑           ↑
 「歴史を展く」     「文化と遊ぶ」

 ※編集工学の仕事の作法をもどく。

 

⊕参考資料⊕

∈ブログ:まいにちポップス(My Niche Pops)
「ある愚か者の場合(What A Fool Believes )」ドゥービー・ブラザーズ(1979)

∈遊刊エディスト:マンガのスコア

LEGEND42荒木飛呂彦 どこまでも読者ファースト

∈ローリング・ストーン・ジャパン誌
ボズ・スキャッグスが語るAOR 黄金期、ブルースの再発見「ヨットロックは大嫌いだ」

∈フォーブス・ジャパン誌
波が似合う爽やかな音楽? 米音楽シーンで注目の「ヨットロック」とは

  • 金 宗 代 QUIM JONG DAE

    編集的先達:宮崎滔天
    最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
    photo: yukari goto

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025