自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
村井純さんは「日本のインターネットの父」である。村井さんが慶應義塾大学/東京工業大学間でコンピュータをネットワークでつなげたのが、日本のインターネットの誕生と言われている。その後も、黎明期からインターネットの技術基盤づくりなどに力を尽くしてきた方だ。いま僕らが日本で、日本語でインターネットを使用できているのは、村井さんのおかげといって過言ではない。
その村井さんに、AIDA Season2「メディアと市場のAIDA」のボードメンバーを務めていただいた。半年間AIDAに参加して、村井さんはどう感じたのか。第6講でメッセージをいただいた。(聞き手・米川青馬)
――AIDAはいかがでしたか?
私は仕事柄、さまざまな議論の場に参加していますが、ほとんどの場はドメインが明確です。たとえば、テクノロジーに関する会議はテクノロジーの専門家たちが話し合い、メディアについての会議はメディアの専門家たちが対話します。そうした場では、限られた範囲のなかで抽象度の高い議論が行われます。
ところが、AIDAには多様な個が存在しています。ボードメンバーはそれぞれ専門性が違い、受講者の皆さんもいろんなところから集まっています。そうした面々が議論しながら離散的な知に関係線を引いていくのが、AIDAの場の特色です。抽象度の高い議論がある一方で、身の回りの具体的な話もよく出てきました。驚いたことに、AIDAでは抽象度の高い議論と身の回りの話が無理なくつながるのですね。両者が完全に整合しているのです。そうしたことが起こる希少な場です。
「メディアと市場のAIDA」というテーマは話のきっかけでしかありません。AIDAでは、テーマよりも、議論がつながっていく空間のほうが重要なのです。その空間をプロデュースする松岡座長とスタッフの皆さんの場づくりがすばらしいと思います。

――第6講で「インターネットには個人と地球しか存在しない」とおっしゃっていましたが、そのインターネットによって世界はこれからどうなるのでしょうか?
実際には、個人と地球のAIDAに「国」があります。個人が多様である一方で、国は限られた人数の権力者が動かしており、それとは別にパンデミックや気候変動が起きている地球が存在するわけです。今後は、この3つをどう結びつけてプロデュースするかが大問題になるでしょう。
結局は、私たち一人ひとりが、個人と国と地球のAIDAを考えるほかにありません。そうやって自律的に考える個人が、それぞれ自分なりのアクションを起こすことが世界を変えていくのです。世界は今後、一人ひとりの働きかけを無視できなくなるはずです。個の埋没などしている場合ではありません。AIDAのような場で抽象度の高い議論と身の回りの話を結びつけながら、自分で考え、動きましょう。
(写真・後藤由加里)
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
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2025-11-18
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2025-11-13
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泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。