【AIDA Season2 第4講!】ニクラス・ルーマンと河本英夫のAIDAで「オートポイエーシスの社会システム」を学ぶ

2022/02/09(水)13:00
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 2022年1月15日、参加する全員が「メディアと市場のAIDA」を学びあい、考えあう「Hyper-Editing Platform[AIDA]Season2」の第4講を開催した。今回のゲスト講師は、オートポイエーシスの専門家・河本英夫さんだ。今回のテーマは「オートポイエーシス」「ニクラス・ルーマンの社会システム」、そして「メタモルフォーゼ」である。今回も、内容の要所を紹介する。

 

★河本英夫さん/東洋大学文学部哲学科教授。専門分野はシステム論、オートポイエーシス、科学論。『オートポイエーシス―第三世代システム』『メタモルフォーゼ』『経験をリセットする』(ともに青土社)、『哲学の練習問題』(講談社)など著書・共著書多数。

 

 

 

 最初に「導入セッション」を行った。オートポイエーシス、ニクラス・ルーマンの社会システム、メタモルフォーゼ、ダブル・コンティンジェンシー。今回のキーコンセプトはすべてが難解だ。そこでまず、ボードメンバーの大澤真幸さんが、安藤昭子(編集工学研究所)の問いに答える形で解きほぐしてくれた。

 

 

★★★ルーマンは、一言で言えば「アンチ・ヒューマニズム」の人です。ルーマンの「社会システム」とは、コミュニケーションを構成素とするオートポイエーシス・システムです。社会のエレメントは、人間ではなくてコミュニケーションだ、と考えたわけです。だから、反人間主義なのです。

 

 

★★★ルーマンのキーコンセプトの一つは、「ありそうもなさ」です。いま皆さんがこうやって私の話をありがたがって聞いていることを、当たり前だと思うかもしれませんが、本当は奇跡のようなことです。ルーマンは、そうした秩序を「ありそうもないことだ」と言うのです。言い換えれば、この秩序は「ほかでもありうる」のです。コンティンジェンシー(偶有性)があるわけです。ルーマンは、自他の関係性のなかに偶有性があると捉え、特に「ダブル・コンティンジェンシー(二重の偶有性)」を重視しました。

 

 

★★★ルーマンの社会システムを知ると、社会が狙ったようには変化しないこと、何を得ようとしているのかわからないまま参画するのが本当であること、などがわかってきます。私たちはいったんルーマンを通過する必要があります。

 

 

 

 つづいて、河本英夫さんの「ゲストセッション」に入った。河本さんは94枚ものスライドを使いながら、高速かつ饒舌なオートポイエーシス論を展開してくれた。

 

★★★「オートポイエーシス」は、ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレラが考えたシステム論です。二人の著書『オートポイエーシス』(国文社)の文章は、あまりにも意味がわかりにくい。私は意味が通るように翻訳していったのですが、何かの拍子に「文章の意味を全部取り違えていた」とわかりました。私はその瞬間、食べたものをすべて吐いて夕方まで寝たのです。それから原稿に大幅に手を入れてでき上がったのが、『オートポイエーシス』の日本語訳です。

 

 

★★★私はシステムを三世代に分けました。第一世代は「動的平衡系」です。動的平衡系では、ある状態から別の状態になるプロセスがあったとして、そのプロセスを逆回ししても元の状態には戻りません。元の状態に戻すには、別のプロセスが必要なのです。これを「二重安定性」と言います。たとえば、新型コロナウイルス感染者の増大プロセスはすでに説明がついています。ところが、減少プロセスはまだよくわかっていません。少なくとも増大プロセスの逆回しではありません。別のプロセスがあるのです。

 

★★★第二世代は「自己組織化」で、第三世代が「オートポイエーシス」です。オートポイエーシス・システムをもっともわかりやすく略図化すると、次のようになります(下概略図)。オートポイエーシス・システムの本体は「プロセスのネットワーク」です。プロセスのネットワークは「構成素」を産出します。この構成素が、自らシステムを再起動しながら内部を回りつづけて構造を生み出し、自己(内)をつくり出すのが、オートポイエーシスの特徴です。つまり、構成素自体がシステム構造をたえず壊し、作り直していくのです。このとき、作る回路と壊す回路は動的平衡系ですから、別々のプロセスになります。

 

 

★★★ルーマンは、社会システムはオートポイエーシスだと考えました。そして、オートポイエティックな社会システムの根本的な構成素を「コミュニケーション行為」と設定したのです。恐るべき頭の良さです。

 

★★★「メタモルフォーゼ」とは、社会システムの構成素であるコミュニケーション行為が、別の何かを生み出して構造を変化させてしまうことです。たとえば、マトゥラーナは以下のような比喩を記しています。「13人の集団には見取り図も設計図もレイアウトもなく、ただ職人相互が相互の配置だけでどう行動するかが決まっている。職人たちは当初偶然特定の配置につく。配置についた途端、動きが開始される。こうしたやり方でも家はできる」。この13人は何を作っているかを知りません。しかし、彼らのコミュニケーション行為が家を作るわけです。ルーマンの社会システムでは、こうしたメタモルフォーゼが起きます。誰も狙っていない矢が的に当たるのです。実際の世の中でもそうしたことがよく起きています。

 


 河本さんのセッションの後、新たな趣向として「システム間議」を行った。まず座衆が4~5人でオートポイエーシス、メタモルフォーゼ、ダブル・コンティンジェンシーについて対話した(システム組間議)。次に代表者が壇上の席に座り、全員の前で対話の内容を共有した(システム代間議)。システム代間議では、第3講のDOMMUNE、ソフトウェア開発、歌舞伎の家、江戸、天皇制、原発、アバター、テレビ局などが、オートポイエーシスやメタモルフォーゼと絡めて次々に語られていった。座衆の皆さんは、河本さんとルーマンから多くの刺激を受けたようだ。

 

 

 最後は、河本さんとボードメンバーの大澤さん、田中優子さん、松岡正剛座長による「最終セッション」だ。丁々発止のやりとりの一部を抜粋する。

 

★★★ぜひ、ぜんぜん違うものを対にする練習をしてください。リスクとチャンスのような当たり前の対ではダメです。たとえばルーマンはリスクと危険を対にしました。こうした対を設定すると前に進めます。(河本)

 

★★★芭蕉は葉が落ちている最中の動きを捉えるのが俳諧だ、と言いました。江戸の儒学や国学は体系を作ろうとしませんでした。三浦梅園の玄学は道教がベースになっていますが、道教は変化の学です。江戸人にはオートポイエティックな崩壊と再生が見えていたのではないかと思います。(田中)

 

★★★最大の問題は、物質から生命が生まれたことです。最初にもっとも「ありそうもない」創発、相転移が起きたのです。どうやって物質が意識を持ったのでしょうか。そのプロセスはいまだに説明できません。設計図や目的はなかったのではないかと思います。まさにオートポイエティックに、構成素が生命のプログラムを自ら作っていったのではないでしょうか。(松岡)

 

 

★★★その生命の進化によってヒトが誕生し、ヒトは神や物語や思想や建物や言葉や数や貨幣や市場や教育や芸能や企業や産業やメディアや機械やコンピュータを作り出しました。これらすべてに共通する主語が「情報」です。情報こそが創発や相転移を起こしてきたのです。(松岡)

 

★★★「物質が意識を持った」という謎を説明するためには、おそらく物質観自体を変えなくてはいけないでしょう。私たちの物質の捉え方が間違っているのではないかと思います。(大澤)

 

★★★私が一緒に仕事をしていた荒川修作は、「身体を巻き込んだ情報」のことをいつも考えていました。身体を巻き込んだ情報や発想を大切にして、経験の選択肢の広げ方を工夫しない限り、これからヒトはコンピュータに勝てません。(河本)

 

★★★明治維新によって、江戸の見方はほとんど失われました。ただ一つだけ可能性を感じるのはメディアです。たとえば川瀬敏郎、ヨウジヤマモト、樂吉左衞門が面白い仕事をしています。私は、ありそうもないメディアの創発に加担したい。江戸のリテラシーやスコアリングやリズムを研究して、職人の技法や手技を大事にして、ぜひ思いきった江戸的メディエーションを起こしてください。(松岡)

 

 

「AIDA・Season2」はいよいよ残り2回。次回のテーマは「アメリカ」だ。

 

 

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写真:後藤由加里


  • 米川青馬

    編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。