飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

大分県北部に位置する耶馬溪の奇岩の連なる山々は、太古の火山活動が織り成したものである。
富岡鉄斎が『耶馬渓真景図巻』を描き、橋口五葉に仕事抜きで行きたいと言わせ、日田市出身の宇治山哲平も描いた耶馬溪。若山牧水、山頭火、杉田久女らは歌を詠み、田山花袋、菊池寛、松本清張は小説の舞台にした。
火付け役は頼山陽だった。39歳、『日本外史』を執筆中に九州を旅する。日田「咸宜園」の広瀬淡窓を訪ねた後、中津の末広雲華に会うため耶馬溪を通った。1818年当時はまだ山国谷という地名だ。「行くほどに景色はよくなり、群峰が渓水を挟んで連なり聳えて、春先の筍が生え出しているようだ」と、『耶馬渓図巻記』で絶賛。山国谷を中国風に耶馬溪と称した。当代きっての文化人が見出した場所はたちまち有名になり、地名も耶馬渓に変更される。
感門之盟初日は、山陽が「此の山に至り筆を投じて嘆ず」と、筆を川に投げた「擲筆峰(てきひっぽう)」からの中継だ。
松岡校長は、「人々は場所に『景気』を感じる。景気が盛られた場所が『景色』となり、景色のよい場所が『名所』となる。ここに『風景の誕生』がある」という。
ときが経ち、今では耶馬溪の名所は他に移っている。護岸工事で頼山陽が愛でた「擲筆峰」は変化したけど、20周年「感門之盟」の景気を吹き込んで、イシス編集学校の新たな景色として刻まれるだろう。
文:田中さつき
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
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コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。