38[花]プレワーク 10の千夜に込められた[花伝所]の設計思想

2022/10/06(木)23:13
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“改めて、編集「工学」の始まり″。

入伝生のT.K.が38花編集術ラボラウンジに投稿した。花伝所オープンの三日後9/29のこと、[守][破]のラウンジとは違う雰囲気を感じ取っての発言のようだ。方法概念ひとつひとつを自分の言葉で確かめ直して共読の場にあげる。自分の考えるべきことに向かうにはどのような問を作ればよいかと掘り下げる。問を連ねる師範・花目付とEditを重ねる入伝生が編集工学を巡って対話を続けるのが[花]のラウンジ。ここにはまだ、師範代のみがいない。

 

今、入伝生は千夜多読仕立てというお題に向かっている。10夜連なった千夜千冊から、[花]での気づきの可能性、つまり[花伝所]指導陣が込めた稽古方針をリバース・エンジニアリング(逆行工学)してみようというものだ。

 

784夜 『雑談の夜明け』 西脇順三郎
689夜 『「いき」の構造』 九鬼周造
118夜 『風姿花伝』 世阿弥
1318夜 『模倣の法則』 ガブリエル・ダルド
660夜 『俳句と地球物理』 寺田寅彦
1304夜 『セレンディピティの探求』 澤泉重一・片井修
1509夜 『ユーザーイリュージョン』 トール・ノーレットランダーシュ
535夜 『人はなぜ話すのか』 ロジャー・C・シャンク
1716夜 『名編集者パーキンズ』 A・スコット・バーグ
1503夜『ピーターパンとウェンディ』ジェームズ・バリ

 

[花伝所]の門をくぐる人の動機は多様である。「師範代の方法を手にしたいから」、「イシスの学び場の仕組に興味があるから」、「編集工学を深耕していきたいから」、「何か面白いものがふってくると思うから」。10夜読みを通じて、思惑ひとつひとつが明かされながら、学び手の鍵穴が磨かれていく。

 

守・破の稽古で出会ってきたもの考えてきたものが、偶然ではなく必然であったことに気づきなおす千夜千冊であった。 I.S.さん
編集の型を学ぶことはすなわち世界への模倣可能性のようなものを追求する。 Y.T.さん
読み進めるうちに自分に向いていた注意のカーソルが外に向かっていった。 O.S.さん

 

偶然を偶然で終わらせないこと。模倣の目を世界に向けること。注意のカーソルを自分の外に向かわせること。どれも[花伝所]の範疇、道場稽古を通じて身につけていくものだ。[花伝所]が伝える型とは他者と相互編集していくための型。お題に自分ひとりで向き合うのではなく、もう一席分拡張し、他者・自分・お題の3項関係が基本パターンとなる。情報生命のように、偶然や他者という非自己を編集モデルに組み込ことによって、複雑な世界に向かうための最小多様性が得られる。

 

さて、10夜仕立ての裏側はどうであったか。10夜は毎期花伝所の指導陣によって組み直される。いくつかその意図をさらってみる。

 

「受容」の深い探求によって花伝師範に抜擢された師範阿久津健は、複雑さや偶然という非自己を自らに取り込むカマエを強調。49[守]で師範代を間近で見守った師範嶋本昌子は両腕でリスクテイクしていってほしいと一夜に託す。セレンディピティを纏う師範山本ユキは、気づきは単なる偶然ではなく鍵と鍵穴だと諭す。花目付の深谷もと佳がそれらを束ね、師範代への変容を目指すよう再構成していく。

 

今期の10夜は特に、簡単には分からないものにどう向かうかが軸となった。イシスのお題・問いは簡単には答えが出ない。なぜならば、簡単に分かるものからはズレが発生しないからだ。線形の世界には意外な結果がない。非線形であるからこそ、それぞれの「分ける」が呼び起され、それぞれの「アナロジー」が必要となる。これら見方のパラメータが重なることで、既存の見方を破った発見が浮かび上がる。安易に分かろうとするのは、特別なものが座る席を無理に埋めてしまうことだ。そういうものからは、「恋しさ@689夜」は生まれない。

 

さらに、[花]以降の「分かる」は自分だけでは完結しない。伝わらないと相手から返されると 再度考え直す必要がある。相手の「変わる」まで指向するのが[花]の「分かる」だ。自分だけが変わるのは分かるの半分にすぎない。この時、どうすれば共に「分かる/変わる」になるのかと組みなおすだけが解決ではない。分からないなりに置きかえたり、分からないを育てて共同知にしたり、分からないを起点に編集をかけようとすることが大切だ。他者や偶然は分からないの起点でもあり、分からないの着地点でもある。これらを織り込んでいくことで編集が我見的なものから相互的なものになっていく。

 

さて、花で立てるひとつの理想的な他者が「師範代」である。[花伝所]が用意するとっておきの編集装置だ。「師範代」を他者として、その見方を借りようと気付いたのがM.Y.だった。

 

「花」は師範代になった「つもり」でお題に取り組む場所。師範代を意識することで見えてくる別の可能性や世界があるのかもしれない。花というトポスによってこれまでのトピックの立ち上がる位置や読者に見える角度が変化する。

 

この気づきをいいかえると、「師範代はただのロールではなくモデル」だと言える。モデル=型であるので、情報を乗りかえ・持ちかえ・着がえていくことに使っていける。師範代の「つもり」になると、既存の問に問われなおすこともできる。分かっていたものの別様の可能性を広げる。だから[花]では、入伝生のために師範代が空席になっている。

 

せっかくの「つもり」の稽古であれば、存分にシミュレーションしたい。めいっぱい成りきりたい。シミュレーションの本質のひとつに、現実では起こせない「例外」の発現がある。何かが極端な現象だ。極端な成りきりで負荷をかけることで、モデルの可能性が見える。その設計思想が浮かび上がってくる。不思議な技を放つ師範代とは何だったのかと、師範代モデルの秘密が明らかになる。

 

すでに「つもり」は手にした。対する「ほんと」は半年後の51[守]師範代。仕立てた千夜に袖を通した入伝生がまっすぐに走りだした。

 

アイキャッチ:阿久津健

テキスト:中村麻人


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