この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

知のミステリーとしてのイシス
イシス編集学校の稽古模様はミステリーのようだ。
ミステリーでは何らかの事件や犯罪が発生し、その謎が最終的に解き明かされていく。一見シンプルだが、犯人は巧妙なトリックを仕掛け、著者は最後にどんでん返しを用意し、読み手の想像をやすやすと超えていく。このように読者を引き込み、既知の想定を超えていくミステリーには、「伏せて、開ける」「開きそうなものを、伏せる」という編集が多重多層に仕組まれている。
これはイシスの編集稽古プロセスにも共通している。そもそも「お題→回答→指南」の流れが「伏せて、開ける」の繰り返しになっている。他の学衆の回答や指南プロセスを互いに読みあうことで、自分一人では思いつかない新しい見方が開かれていく。イシスには何気ないルールやしつらえひとつにも編集の意図がある。このような編集によって教室では知の事件が連鎖し、今までにない見方や視野が広がり、既知の見方が破られていく。
師範と師範代の「ダブル・コーチング・システム」
開講2週目の「師範」の登場も、「伏せて、開ける」を象徴するような事件だった。
イシスには師範代だけでなく、師範というロールがあり、開講当初から教室の様子を眺めていた。
『インタースコア』にあるように、師範の「範」という漢字は、「車を浄めて出掛けるときの姿や礼」であり、「前に進もうとする者たちの格好」を指す。
師範は全員が師範代経験者であり、編集道の先を歩む者。編集学校という情報に「師範」という要素が加わり、イシス編集学校が「ダブル・コーチング・システム」でもあることがあかされた。
「伏せて、開ける」師範陣
師範の登場の仕方にも「伏せて、開ける」がある。
吉居奈々師範は、「ファンレターのお届けです」(カンテ・ホンド教室)、「別冊びいどろ愛読してます~」(本達ビードロ教室)と、担当教室名や稽古の様子に肖ったタイトルをつけ、開講から学衆と師範代の編集稽古を見守ってきたことをあかした。
三津田恵子師範は、稲垣景子師範代(オブザぶとん教室)と桑田惇平師範代(極性アンバンドル教室)とタッグを組み、事前に師範代が新しい客人(師範)の到来を予感させる謎の投稿をした上で、その正体をあかした。登場そのものに「伏せて、開ける」が込められていた。
渡辺恒久師範は、学衆一人ひとりの稽古ぶりへのエールをおくりつつ、「編集稽古は『動く障子』や『進む襖』なんです。」という松岡校長のメッセージを差し入れた。このメタファーは新たな「伏せ」でもあり、今後の編集稽古のどこかであかされていくことだろう。
師範は複数の教室を担当し、稽古ぶりを見つつ、編集工学や編集学校などについて、勧学会に差し入れをしていく。師範の「伏せて、開ける」編集が、勧学会や編集稽古にどのような新たな知の事件が起こすのだろうか。
【第47期[守]基本コース 師範陣】
◆井ノ上裕二
◆梅澤光由
◆齋藤幸三
◆武田英裕
◆中村麻人
◆三國紹恵
◆三津田恵子
◆吉居奈々
◆若林牧子
◆渡辺恒久
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
「松岡正剛の方法にあやかる」とは?ーー55[守]師範陣が実践する「創守座」の場づくり
「ルール」とは一律の縛りではなく、多様な姿をもつものである。イシス編集学校の校長・松岡正剛は、ラグビーにおけるオフサイドの編集性を高く評価していた一方で、「臭いものに蓋」式の昨今のコンプライアンスのあり方を「つまらない」 […]
第87回感門之盟「感話集」(2025年3月29日)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 【87感門】感話集 物語づくしのスペシャルな1日に(司会・鈴木花絵メッセージ) 文:今井早智 […]
「講座の中で最高に面白い」吉村林頭が語る「物語の力」とは【87感門】
イシス編集学校の校長・松岡正剛が、編集工学において、「方法日本」と並んで大切にしていた方法。その一つが「物語」であり、この物語の方法を存分に浴びることができる場が、イシス編集学校の[遊]物語講座である。 「 […]
色は匂へど 散りぬるを 〜Open Perspective〜 「い」 色は何色? わけてあつめて 虹となる [用法1]わける/あつめる 2025年3月15日、桃や梅が春の到来を告 […]
第85回感門之盟(2025年3月9日@京都モダンテラス)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 春の京にて、師範代へ贈られた「ふみぐら」ーー【53破】先達文庫授与【85感門】 文:安田 […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。