本楼とオンラインを編み込んだハイブリッドな感門之盟は、すでに9時間が経過していた。44[守]、43[破]、32[花]、12[綴]とすべての感門を終えた会場の熱気は、オンライン越しにも伝わってくる。時刻は20時40分。いよいよ校長校話である。登壇する松岡校長の顔はほころんでいる。場が醸成した証しである。
テーマは「あやかり編集力」。「あやかるという文字は“肖”と書く。あゆ、あう。つまり何かが離れない、連携するという意味がある」と松岡校長は切り出し、編集人生のはじまりは、母親の鏡台にあったと語り始めた。
「鏡台には母親だけが知っている何かがある。鏡台の上に置かれていたコンパクトも子供にはなんだかよくわからない。アイラッシュカーラーなんて手にとってみると妙な感覚が残る。母親の鏡台ごと記憶のトポスとなる。これが物にあやかるということです」
物にあやかるとはいかに。感門之盟で講話をするために数日前、向かった先は百円ショップだった。一見なんだかわからないものを十数点品厳選してきたという。松岡校長が百円ショップで買い物する姿なんて想像しにくいけれど、そこは松岡正剛、あくまでも編集的視点で品定めをする。
選び抜いた百均の品々を会場のビジョンに映し出した。
「これは何に見える?」
会場の面々は画像を食い入るように見つめるが、見当がつくものと、つきにくいものがある。それらは試験管の一輪挿しと木枠のスタンド、キッチンのゴミ袋フック、排水口の金具、ピン、スコップ型のティースプーン、アイブロー用のチップ、つけ爪などであったが、そもそも画像だとサイズ感はわからないし、撮影する角度、並べ方でもまた違って見える。
「つけ爪ならつけ爪という既存の言葉で留めてしまいがち。アーキタイプ、プロトタイプ、ステレオタイプで見ようとしない。これらは普遍的な何かを持っているし、世界の断片でもある。たとえばつけ爪を系統樹にしてみれば生物進化学にもなりうる。あやかり編集力に関心があるのなら、そこまでいってほしい」
守のお題「コップの使い方」を思い出した人も多いだろう。部屋にも台所にも街にも世界の断片が溢れている。形骸化されてしまっている概念の編集は、卒門・突破した後にこそ試される。「肖る」という字にあやかった校長校話は、当該期だけでなく編集学校に関わるすべての学徒に向けた「初心」の問い直しともなった。
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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