■情歴ファンは、思わぬところに
主役にはならない。けれど、あの脇役が欠かせない。本の世界にも名脇役がいる。松岡正剛が1990年にデビューさせた伝説の年表、『情報の歴史』がそうだろう。
通称『情歴(じょうれき)』にファンは多い。帯にはいとうせいこう、ヤマザキマリが名を連ねる。小雪舞う2月23日、東京豪徳寺のISIS館では、ゲーム作家の山本貴光氏が活用法を伝授していた。
奇しくも同日、ある人気podcastでも「今、あなたを揺るがすこの1冊」として紹介されていた。選者は、株式会COTEN代表・深井龍之介氏である。
■COTEN深井龍之介氏は、情歴をどう読むか
COTENといえば、人類の全歴史を誰もがアクセスできるデータベースとして再構築しようとしている企業である。歴史を面白く学べる「コテンラジオ」のリスナーは編集学校にも多い。編集工学研究所専務安藤昭子もその一人であり、当記事の記者もサポーター会員である。深井氏は、出演する鼎談番組「超相対性理論」#45のなかで語った。
情歴は、「年表としては親切。でも社会科学の知見を手軽に得たい人には不親切」。トラックを縦に読めば、その地域や分野における時代の流れがわかり、横に眺めれば同時代性が見えてくる。しかし、情歴には、事実から導かれる意味や文脈は書かれていない。「意味づけは自分で抽出しないといけない」と、読み手が試される手応えを伝えていた。
■「編集がすごい」
Takram渡邉康太郎氏、学びデザイン荒木博行氏も愛読
それを受けて、松岡正剛の大ファンと公言し、『情歴』も初版と最新版の2冊を持っているというTakram 渡邉康太郎氏が番組内で応答。最新版が2020年までの年表が収録されていることを、「象徴的」と語る。コロナに揺れ、先の見通しが立たなくなったその極地でアップデート版が出版されたことに対し、連続ドラマが中断したようなはやる気持ちを表明してみせた。
もうひとりの出演者である学びデザイン 荒木博行氏は「この年表は、情報の新しい構造化」「2021年の世界を振りかえって、5本の潮流に構造化せよと言われても大変。この知的な作業こそが、付加価値だと思う」と感嘆。
渡邉氏は「中身だけでなく、提示の作法も面白い。それこそが編集の妙であり、これはその象徴的事例だ」と、編集方針へのリスペクトを惜しまない。
世界史のデータベースを作るCOTENと、すでに人類の情報の歴史を年表化した編集工学研究所。先日、深井氏は本楼を訪れ、編工研専務 安藤や『情報の歴史21』編集長 吉村堅樹らと対談している。30年越しに進化を続ける『情歴21』から、新たなるスターが生まれるかもしれない。
▽参考サイト
●COTEN https://coten.co.jp/
●コテンラジオ https://cotenradio.fm/
シリーズ「最澄と空海」では、松岡正剛著『空海の夢』も登場。
#37〜#38「寂しさとは何か」では、『17歳のための世界と日本の見方』からのインスパイア有り。ブックリストはこちらから
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写真:梅澤奈央
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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