自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
時計と株価と価格の海に今まさに降り立たんとする千夜千冊エディション。
全国で二十冊到達記念の千夜千冊エディションフェアが展開中であるが、その渦中に発刊したばかりの21冊目『資本主義問題』である。背景はダンボールに新聞を切り抜いて貼ったものだが、こういった作業をしてみると新聞やメディアにはいかに数字が溢れているかがわかる。一目瞭然の価値のスコアである数字、言い換えればお金の魔力に、私たちは呪縛されている。
今回のエディションの字紋はずばり「金」。章ごとの冒頭の字紋あしらいもホストクラブのシャンパンタワーのように聳え建ったり、大衆演劇の役者みたいに「金」のおひねりが乱舞している。恐れ入ったり、踊り狂ったりの字紋模様も楽しんでいただきたい。
『資本主義問題』の帯には真ん中に「なぜ、おりられないのか」、左下隅に「マネーとグローバリズム」。何から降りるのか。それは追伸のタイトル「資本主義の船から降りられるのか」に明らかである。ただ、今回のエディションは降り方指南ではない。降りようにもまずは「資本主義」そのものを知る必要がある。そのための目次立ては以下をご覧いただきたい。
前口上
第一章 マネーの力
ハンス・クリストフ・ビンスヴァンガー『金と魔術』1374夜
ニーアル・ファーガソン『マネーの進化史』1367夜
ゲオルク・ジンメル『貨幣の哲学』1369夜
今村仁司『貨幣とは何だろうか』1370夜
仲正昌樹『貨幣空間』1375夜
ジェイムズ・バカン『マネーの意味論』1382夜
第二章 資本主義の歯車
ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』1676夜
ブライアン・リアマウント『オークションの社会史』729夜
ゲルト・ハルダッハ&ユルゲン・シリング『市場の書』1133夜
ジョン・ミクルスウェイト&エイドリアン・ウールドリッジ『株式会社』1293夜
ダニエル・ヤーギン&ジョゼフ・スタニスロー『市場対国家』1108夜
小林正宏・中林伸一『通貨で読み解く世界経済』1381夜
第三章 君臨する経済学
間宮陽介『市場社会の思想史』1336夜
ジョン・メイナード・ケインズ『貨幣論』1372夜
フリードリヒ・ハイエク『市場・知識・自由』1337夜
イマニュエル・ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』1364夜
ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』1338夜
ロバート・スキデルスキー『なにがケインズを復活させたのか?』1373夜
第四章 グローバル資本主義の蛇行
マンフレッド・スティーガー『グローバリゼーション』1358夜
スーザン・ストレンジ『マッド・マネー』1352夜
ジョージ・ソロス『グローバル資本主義の危機』1332夜
金子勝『反経済学』1353夜
鈴木謙介『〈反転〉するグローバリゼーション』1388夜
パオロ・ヴィルノ『ポストフォーディズムの資本主義』1390夜
アレックス・カリニコス『アンチ資本主義宣言』1391夜
追伸 資本主義の船から降りられるのか
「時は金なり」。ベンジャミン・フランクリンの言葉だ。「金」いわゆる貨幣というものは時が経つと増殖する方向に向かうというのが資本主義の原則である。このマネーとはいったい何か。マネーの機能、意味、進化をゲーテの『ファウスト』の錬金術からじっくり解読したのが第1章である。シルビオ・ゲゼルやエンデの時間によって減衰するマネーの提案は別のエディションにて紹介される。
第二章は資本主義の基幹エンジンとなっている複式簿記、市場、オークション、株式会社、為替取引が連打される。資本主義とは外側にあるフロンティアを次々に拡張して、内化する大食ハイパーシステムである。資本主義の外に出ているつもりでもいつしか資本主義に飲み込まれていく。巨船のタラップに足をかけたと思いきや、そこはすでに甲板のど真ん中なのである。これらの資本主義装置、資本主義時空に理論的根拠を与えるのが経済学だ。第3章ではケインズ、ハイエク、フリードマンといった名だたる経済学者が揃い踏みする。
変動相場制で蓋が開いたグローバル資本主義の化け物にどう対処するかという提案は第4章になる。大きな物語をこそ大事にする時代遅れのマルクス主義か、アメリカの新しい動物性に対抗するマルチチュードか、グローバリゼーションを反転したときの底辺に光るアナキズムか。追伸ではエディションで取り上げたソロス、ヴィルノ、カリニコスの書きっぷりから察知されたいと結ばれている。資本主義どうなの?と思う向きは、まずは手に取るしかないだろう。降り遅れないために。
開催中のエディションフェア「知祭り」では、21冊目の発刊に合わせて新たなポップがデザインされた。なんと週刊文●の吊り広告擬きである。『資本主義問題』の発刊は21世紀の激変を告げる事件だというわけだ。
吉村堅樹
僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。
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2026-01-13
自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)
2026-01-12
比べてみれば堂々たる勇姿。愛媛県八幡浜産「富士柿」は、サイズも日本一だ。手のひらにたっぷり乗る重量級の富士柿は、さっぱりした甘味にとろっとした食感。白身魚と合わせてカルパッチョにすると格別に美味。見方を変えれば世界は無限だ。