自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
「即応指南」スペシャル、オンライン稽古が行われた。巷はバレンタインの夜だが、先日行われたエディットツアーを丸ごとリバースしようと、先峰吉井優子花伝師範が乗り出した。花伝所を放伝したあとも新師範代は次期51[守]へ向けて研鑽をつづけている。研鑽ということばは、深く究めるという同じ意味の字が二つ組み合わさって出来ている。重ねる・続ける・深める・積む。
師範代登板になることへの漫然とした不安はすでに吹っ切れたものの、それぞれのもつ課題は漠然としている。つい正解を導きだそうとしてしまうもの、表面的になぞってしまうもの。回答の奥にある意図を取り出すことは、なかなか難しい。そう感じるのも無理はない。なぜなら教室はナマであり学衆と回答という相手があってはじめてアフォーダンスが生まれ、問感応答返のやりとりがたつ。前後の対話や一つではない回答の順序や飛躍ぶりにこそらしさが現れる。読み手の得意手や不得手が自己のエディットモデルとして実感となるのはここからだ。
ゾウ談のあと、さっそくいくつかの[守]のお題に取り組んでいく。
おのおのが学衆となってチャットに回答を挙げ、その回答の中から、気になったものを一つ選び「WHY」と「HOW」をインタビューによって掴んでみようという試みだ。師範代の思考プロセスを話者、読者、観察者、リスナー、あらゆる立場を参加者が擬く。
お題:コンビニにないもの。
選ばれた回答:雨
編集学校のお題はユニークで、ないものを挙げる問いがある。
見えにくい思考のプロセスをなぞるために稽古では、回答が導かれた筋道を明らかにしてみようと言語化を試みた。
インタビュアーもインタビューイも新師範代がつとめる。
本間 「こんばんは。久しぶりです。回答で“雨”ってことですけど、商品の外にあるものですね。」
奥富 「ぱっとみたときに、野良猫とかありえないものがたくさん飛び込んできまして。」
本間 「あった方がいいんですかね、雨。」
参加者「・・・」
奥富 「雨は要らないんだけど、農家さんにとっては、雨キットとかジョウロとか、いいですよね。要らないっていうよりは、あってもいいかも。」
本間 「ないもの、というとマイナスのイメージだけどね、傘立てとか、お店の内から外へも視界を広げるの、いいですね。」
奥富 「コンビニが『大きな傘』みたいなもの、とも言えますよね。コンビニに入れば、雨は遮断されるしね。」
本間 「内と外を隔てるものとか、道行の途中とか。」
新垣 「役割としては、ある。まるっきりないものを探すのは大変、どの《地》からみるのかですね。」
この感、交わし合うこと3分余り。インタビューを聞き入っている参加者はそれぞれ指南をその場で書ききる。通常一時間かかる指南が即応だけにたった3分少々で書き上げる。まくらことばも、時節の挨拶も省略だ。
「雨はコンビニには要らないけど、雨グッズで喜ぶ人がいると自分以外の人を思い浮かべて選んだところに奥富さんのあたたかさが表れています。コンビニを大きな傘と言い換えたところで、一気に想像が膨らみました。」新垣師範代
「『コンビニ』の『雨宿り』という【機能】にも注意のカーソルがあたり、プロフィールとなりました。」水野師範代
「最近雨や雪が多いので、雨、気になります。雨、たしかにコンビニにないですね。雨はないほうがいいとも思いますが、雨が降らないとき、農家さんにとってはコンビニで調達できたらいいですね。《地》をずらしましたね。」山本師範代
「奥富さんのアタマの中にふるいがかかってないものだけど、あったらいいなという可能性を広げてくださいました。雨グッズ、あったら助かる人がいるかもですね。自動ドアが内と外の世界をつないでいるのかもしれませんね。」大塚師範代
賞味30分のスピードワーク、書いて語る。語りをさらに言い換える。新師範代は回答のどこに着目して、どんな言葉を選ぶのか瞬時に反応してみせた。言葉を通して見方が広がる。フィードバック・ループによって、教える側が学ぶ側にもなる。主客の反転とはこのプロセスのことだ。雨がフックとなって、知っているはずのコンビニが変化する。
「即」の妙味。編集稽古にはわかるとカワルが同時多発し、見方はつねに破れていく。明快なインストラクションによって、視界はひらけていく。指南は何度でもおいしい。
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
「乱世こそ花伝所」。松岡正剛校長の言葉を引用し、花目付の林朝恵が熱く口火をきる。44[花]の問答条々、式目の編集工学講義は花伝所をけん引するツインターボ、林・平野の両花目付のクロストーク形式で行われた。2025年10月2 […]
「5つの編集方針を作るのに、どんな方法を使いましたか?」。遊撃師範の吉井優子がキリリとした声で問いかける。ハッと息を飲む声がする。本楼の空気がピリリとする。 ▲松岡校長の書いた「花伝所」の前でマイクを握る吉井師範 &n […]
先人は、木と目とを組み合わせて「相」とした。木と目の間に関係が生れると「あい(相)」になり、見る者がその木に心を寄せると「そう(想)」となる。千夜千冊を読んで自分の想いを馳せるというのは、松岡校長と自分の「相」を交換し続 […]
【書評】『アナーキスト人類学のための断章』×4× REVIEWS 花伝所 Special
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を数名で分割し、それぞれで読み解くシリーズです。今回は、9月に行われ […]
3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師 […]
コメント
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。