石井桃子から岡野弘彦まで 47[守]先達文庫(後半)【77感門】

2021/09/04(土)16:20
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卒門式は感情が感染する。

「何が起こるかわからない、生き物みたいな編集学校」と涙する圓尾に、本楼にいる律師八田はもらい泣き。

「断乎として教室名を然らしめる稽古ぶりを誇りに思う」と備長炭のような教室を凛と語る稲垣には、集う師範代が大きくうなずいた。

 

卒門式は、半年のありったけの思いを90秒で発露する師範代の晴れの場だ。そんな舞台に、学衆が見立てた衣装で身を包んだのは堀田。和製メン・イン・ブラックとばかりに、作務衣にネイルからイヤーカフまですべて、黒い染め上げたユニークな出で立ちもあった。師範三國は、堀田を「学衆さんに編集してもらった」と拍手を送り、稲垣は学衆に「私を師範代にしてくれてありがとう」と相互編集に礼を述べた。

 


第77回感門之盟「DAN ZEN イシス」で、47[守]を終えた師範代21名に「先達文庫」が授与された。編集学校では一期を全うした師範代に、松岡校長が自ら本を選んで贈る。師範が師範代をねぎらう感門表を授与し、先達文庫を託された鈴木康代学匠と大武美和子輪匠が、師範代を称えながら一冊一冊手渡していく。

 

▲粋な出で立ちで小気味よく本の紹介をする大武と、楽しみに待つ長島。

 

◆桑田惇平師範代(極性アンバンドル教室)

『よくわかるメタファー』(瀬戸賢一/ちくま学芸文庫)

◆稲垣景子師範代(オブザぶとん教室)

 『海を見たことがなかった少年』(ル・クレジオ/集英社文庫)

 

◆真武信一師範代(混合ポリローグ教室(速修))

『折口信夫伝』(岡野弘彦/ちくま学芸文庫)

 

◆堀田幸義師範代(セッケン時空屋教室)

『折りたたみ北京―現代中国SFアンソロジー』(ケン・リュウ=編/ハヤカワ文庫)

 

◆佐藤健太郎師範代(「象」徴ドミトリー教室)

 『世界の半分を怒らせる』(押井守/幻冬舎文庫)

 

 西宮牧人師範代(カンテ・ホンド教室)

『ベンヤミン 破壊・収集・記憶』(三島憲一/岩波現代文庫)

 

 下田富美子師範代(本達ビードロ教室)

『図書館の興亡』(マシュー・バトルズ/草思社文庫)

 

 阿久津健師範代(そこそこノンブル教室(速修))

『眼の冒険―デザインの道具箱』(松田行正/ちくま文庫)

 

 赤木美子師範代(近々ワンダー教室)

『家と庭と犬とねこ』(石井桃子/角川文庫)

 

◆新井和奈師範代(アイドル・ママ教室)

 『妹たちへ』(矢川澄子/ちくま文庫)

 

◆圓尾友理師範代(妖精アスリート教室)

 『幻獣の話』(池内紀/講談社学術文庫)

 

 

佐藤は、4ヶ月の道のりをイスラエル・ネゲヴ砂漠でのマラソン大会にたとえ、番匠景山は「編集は世界とつながってこそ意味がある。みなさんの言葉で世界は豊かになる」と編集の足を止めぬよう激励。

校長松岡は、イシスネオンを背負ってすべてを見つめる。「いいぞー」と大向うから声がかかるなか、師範代は泣き笑いの挨拶を終えた。手渡された先達文庫には、一人ひとりに向けて松岡直筆のメッセージがしたためられている。それを読み、彼らは再度涙する。

 

ご卒門された皆様、おめでとうございました。

 

 

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。