バジラの図象は間に合うのか?! 輪読座準備中!

2022/01/30(日)12:55
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「もう10分待ってくれ」

 

12時をまわった頃、吉村林頭のスマホに着信が入る。輪読座の主、バジラ高橋からである。13時からスタートする輪読座の図象を仕上げるまでもうしばらく待ってほしいとの連絡だった。

 

 

「12時までには送るって言っとったのになぁ」

 

終話ボタンを押した吉村がつぶやき、スタッフは苦笑する。誰もあわてなどしない。圧巻の情報量のクロニクルに編集思考素が駆使されたバジラ独自の図象が、毎回ギリギリまで筆を執りつづけてアウトプットされていることを知っているからだ。

 

しばらくして図象が届くと、待機していた吉村がレイアウトを細かく整えてスタッフに共有する。学林局の衣笠は印刷のため階段を駆けあがり、輪読娘の宮原はEdit Cafeのラウンジへできたての図象を配信する。


 

時は12時30分。かくして図象は間に合った。

 

数分後。安堵のため息を吐く吉村のスマホが再び振動する。バジラからの着信である。

 

「タクシーで向かってるんだけどさぁ、道が混んでるんだよ」

 

スタッフ一同は、松岡校長の最新の千夜千冊の一節が浮かべる。

 

 世界制作とはリメイク(remake)なのである。造物主がいようといまいと、世界はずうっとリメイクされつづけてきたはずだ。だから誰だっていまからでも「手持ちの世界」を土台に世界制作にとりくめばばいい。少しずつでもリメイクに着手していけばいい。
 ぼくはそれをエディティングと呼び、手持ちと援軍の編成体を編集工学と名付けてきた。

1793夜 ネルソン・グッドマン『世界制作の方法』

 

たとえ主のバジラが間に合わないとしても、スタッフは「手持ちの世界」を土台に輪読座をエディティングをしていく気概で臨んでいる。

 

開始まで、残りあと5分。バジラは間に合うのか。

 

 

***

 

追記:13時2分。バジラ高橋は裏扉の取手におもむろに手をかけて会場入りした。吉村の進行と衣笠のカメラワークさばきで、この空白の2分に気づいた座衆はおそらく誰もいないだろう。

 

田中良英座衆の図象の読みを口をほころばせて聞いていたバジラが口をひらく。

 

「そう、面白い読みだね。曹洞宗は方法を編み出してはそれが定番にならないようにどんどん変えていく。前のやつが作ったものを平気で改造していく。そこが曹洞宗の面白いところ。

 

 定番の方法でやれば確かに善良でいい人間ができるけれど、そうはしなかった。もっと多様なものが協働できる状況のためにどのようにすればいいのかに向かった。今日の輪読座は(天童)如浄に向かうけれど、どうやら如浄さんもそういうことに気づいた一人だったんだろうな」

 

 

バジラの高速の問感応答返にZoom越しの座衆はメモをとる。輪読座のいつもの景色だ。この間、バジラの着席から1分足らずである。

 

第四輪を迎えてなお輪読座の新規受講者が増えつづけている理由の一つには、こうしたバジラのリメイク=エディティングの実践がある。

 

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025