ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
「もう10分待ってくれ」
12時をまわった頃、吉村林頭のスマホに着信が入る。輪読座の主、バジラ高橋からである。13時からスタートする輪読座の図象を仕上げるまでもうしばらく待ってほしいとの連絡だった。
「12時までには送るって言っとったのになぁ」
終話ボタンを押した吉村がつぶやき、スタッフは苦笑する。誰もあわてなどしない。圧巻の情報量のクロニクルに編集思考素が駆使されたバジラ独自の図象が、毎回ギリギリまで筆を執りつづけてアウトプットされていることを知っているからだ。
しばらくして図象が届くと、待機していた吉村がレイアウトを細かく整えてスタッフに共有する。学林局の衣笠は印刷のため階段を駆けあがり、輪読娘の宮原はEdit Cafeのラウンジへできたての図象を配信する。
時は12時30分。かくして図象は間に合った。
数分後。安堵のため息を吐く吉村のスマホが再び振動する。バジラからの着信である。
「タクシーで向かってるんだけどさぁ、道が混んでるんだよ」
スタッフ一同は、松岡校長の最新の千夜千冊の一節が浮かべる。
世界制作とはリメイク(remake)なのである。造物主がいようといまいと、世界はずうっとリメイクされつづけてきたはずだ。だから誰だっていまからでも「手持ちの世界」を土台に世界制作にとりくめばばいい。少しずつでもリメイクに着手していけばいい。
ぼくはそれをエディティングと呼び、手持ちと援軍の編成体を編集工学と名付けてきた。1793夜 ネルソン・グッドマン『世界制作の方法』
たとえ主のバジラが間に合わないとしても、スタッフは「手持ちの世界」を土台に輪読座をエディティングをしていく気概で臨んでいる。
開始まで、残りあと5分。バジラは間に合うのか。
***
追記:13時2分。バジラ高橋は裏扉の取手におもむろに手をかけて会場入りした。吉村の進行と衣笠のカメラワークさばきで、この空白の2分に気づいた座衆はおそらく誰もいないだろう。
田中良英座衆の図象の読みを口をほころばせて聞いていたバジラが口をひらく。
「そう、面白い読みだね。曹洞宗は方法を編み出してはそれが定番にならないようにどんどん変えていく。前のやつが作ったものを平気で改造していく。そこが曹洞宗の面白いところ。
定番の方法でやれば確かに善良でいい人間ができるけれど、そうはしなかった。もっと多様なものが協働できる状況のためにどのようにすればいいのかに向かった。今日の輪読座は(天童)如浄に向かうけれど、どうやら如浄さんもそういうことに気づいた一人だったんだろうな」
バジラの高速の問感応答返にZoom越しの座衆はメモをとる。輪読座のいつもの景色だ。この間、バジラの着席から1分足らずである。
第四輪を迎えてなお輪読座の新規受講者が増えつづけている理由の一つには、こうしたバジラのリメイク=エディティングの実践がある。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
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鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。