巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
約束をすっぽかす。目上の人に平気でくだけた言葉を使う。相手の親切に感謝の言葉も返さない。
そういう輩を「礼儀知らず」などというが、この「礼」の本来は、もしかしたら周王の統治システムにあったのかもしれない。
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2月28日、バジラ高橋の輪読座第五輪は周の時代の「5つの礼」の図象解説から始まった。
バジラによると、自然神を祀る「吉礼」、災害時の哀悼の儀礼「凶礼」、諸侯国・異国との外交にあたる「賓礼」、軍事的な衝突を避け協調関係を築く「軍礼」、婚姻などで家族の安定をはかる「嘉礼」。周王はこの5つの礼を司り、これらを調えることで諸侯国を治めていたという。
5つの礼は、周王だけでなく、諸侯や各地の土地領有者までが実施することを課していたという。礼が一帯に浸透することで共通の文化がうまれ、やがて周と諸侯国間の調和関係につながっていった。封建制による地方自治の時代を生き抜いた周王ならではの編集だろう。
5つの礼をきちんと行わないと、文字通り「礼」を欠き治安を乱す者とみなされた。これが「礼儀知らず」の本来だったわけである。
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周の5つの礼は、木管五重奏を想起させる。
木管五重奏とは、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンからなる西洋クラシックの定番編成の一つ。18世紀ごろから登場し、19世紀に確立したとされる。
五重奏というと、他には弦楽五重奏や金管五重奏などもあるが、これらはどれも発音方法が同じ楽器による編成のため、楽器同士の音色のムラが少なく、調和しやすい編成といえるだろう。
一方、木管五重奏はどれも管楽器ではあるものの、発音の振動体がオーボエ、ファゴットを除きどれも異なっている(オーボエとファゴットはダブルリード、クラリネットはシングルリード、ホルンは(唇と)マウスピース。フルートはそもそも楽器に振動体がない)。そのため発音される音色も楽器によってまったく異なり、全体の響きのバランスを取ることは、実は相当に難しい。だが、うまくいけばそれぞれの独自の音色を保ちつつ、他の編成にはない響きを獲得できる。作曲家も演奏家も、こうした困難をリスクテイクをした上で五線紙に相対している。
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同じ国でありながら異なる自治のしくみをもつ諸侯国。同じ管楽器でありながら異なる発音と音色をもつ楽器群。ここに何かしらの相似を感じずにはいられない。
周王の5つの礼は、地方自治の独自性・多様性を認めつつ全体の調和を実現させた、周と諸侯国のインタースコアである。「挨拶をきちんとしなさい」「礼儀正しく振る舞いなさい」というのもいいが、それならいっそ周の5つの礼に肖り、現代版の5つの礼の編集に向かいなさい。21世紀の木管五重奏を作曲しなさい。バジラ高橋ならばきっとそう語りかけてくることだろう(もっとも、バジラが西洋音楽をどのように評価しているかは全く別の話だ)。
余韻:
木管五重奏で一つに作品をしぼるなら、リゲティの『木管五重奏のための6つのバガテル』(György Ligeti “6 Bagatelles” 1953年)をあげたい。
5つの楽器それぞれの音色や特性をいかしつつ、楽器と楽器、フレーズとフレーズのあいだを明快かつ精緻に編み上げたユーモラスな小品集。初期の作品でありながらすでにリゲティが備えていた、あいだを聴きとる耳と音を選びとる確かな技術を感じることができる。
リゲティの音楽は、キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」「シャイニング」などにも用いられているので、そちらでピンとくる方も多いかもしれない。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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