【輪読座】蝸牛となる覚悟はあるか?(「柳田国男を読む」第二輪)

2021/05/30(日)22:00
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図象という方法

 

情報編集において「in」と「out」がセットであるように、輪読座もインプットとアウトプットでワンセットとなっている。

 

バジラ高橋による図象解説と輪読でインプットを徹底しつつ、最終的に座衆はオリジナルの図象をつくりあげる。ターゲットは単なる情報の要約ではない。21世紀の現在にどのように転用するか、まで向かう。

 

今春の輪読座のテーマは柳田国男。2021年5月30日の第二輪の冒頭、前回の内容について座衆から図象発表がおこなわれた。

 

 

国を背負う蝸牛になれるか

 

 

柳田にはあるが今失われているのは「国を背負う覚悟」。これを大胆に図象化したのが、「イシスのイシツ」シリーズで活躍の羽根田月香座衆である。

 

柳田を蝸牛に見立て、自律的常民を養うために欠かせない要素を「土→教育→文化」の三間連結で象った。

 

一つだけでも背負うのは生半可ではないが、21世紀の経済偏重社会や過度なデジタル依存から脱するには、全部を引き受けていく必要があるとういうことか。

 

 

知文・クロニクルから、自律のプランニング編集へ

 

 

「テキストをプリントアウトしたものを床に並べて、位置関係がどうなるかを試した」という岡本悟座衆は、柳田の編集術に注目し、「菅江真澄の遊興」×「日本産銅史」=「自律のプランニングへ」という一種合成で転用の可能性をあらわした。

 

菅江真澄の旅の記録には、土地に根差して文化を伝承・発展させる常民が描かれている。その表象は知文の方法に満ちていた。

一方、日本の古代からの銅をめぐるシステム研究の書である「日本産銅史」は、クロニクル的な見方が特徴である。

 

こうした柳田の方法を取り出すうちに「自律のプランニング」が立ち上がった。このコンセプトが「競争や序列化が通常の市場経済」に代わるものになるのではないか。岡本座衆の解釈と仮説が図象によって形となった。

 

 

全体像としての柳田、伏せられた柳田に迫るために

 

「柳田論は山ほどあるが、なぜ面白くないのか。一つは「〇〇における柳田」などとつまみ食いばかりで全体像が見えていないから。もう一つは、歴史的に伏せられた柳田国男がいるから。」とバジラ高橋はいう。

 

柳田の方法に迫るためには、各論的につまむのでは不十分だ。座衆の図象でもあらわれているように、文化や教育といった大きな分野から地方の一村落の伝承まで、注意のカーソルをダイナミックに動かしつつ、あらゆる編集術を惜しみなく重ねていく覚悟が必要になる。

 

第二輪では、「農村の疲弊と日本語の問題」と題し、明治維新後の近代化に対する柳田の方法と実践に向かう。柳田国男を読むとは、柳田の背負った日本という貝殻の重みを引き受けること同義なのかもしれない。

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025