飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

1800夜達成を記念して、贈呈された「千夜一撃帖」。イシス編集学校の師範、師範代からAIDAの座衆、編集工学研究所、松岡正剛事務所のスタッフたちまでが、それぞれ1800夜から雷鳴に撃たれた一夜とワンフレーズを選び、いかにわたしは直撃されたかを吐露したものである。速報記事「祝1800夜! 松岡正剛を囲む千夜一撃帖の夕宴」で祝宴の一部を紹介したが、あらためて130名がどんな千夜を選んだのかをご紹介しよう。
もっとも多く選ばれた千夜はなんだったでしょうか? と聞くと、ほぼ全員が『良寛』と答えた。1000夜という節目の一夜でもある。イシス編集学校の10周年感門之盟で能楽師の安田登が朗誦しながら舞った一説、「切実を切り出さずして・・」を5人中4人が選んだ。
つづいて、3人が選んだのがヴィトゲンシュタインとパース。千夜千冊エディション『編集力』にも取り上げられている2夜。編集工学の先達としても当然のセレクトだ。ヴィトゲンシュタインは見事に「カタルトシメス」の一説が取り上げられている。パースの一節は小川、三津田、嶋本と読んでみると繋がるように読めなくもない。
ほぼ同じワンフレーズを選んだのが、森茉莉と宮沢賢治の2夜。森茉莉を選んだのは14離で典離を受賞した山口、寺田両師範代。二人とも汚れたコップがヴェネチアン・グラスになる想像力の持ち主のようだ。『銀河鉄道の夜』からは、「編集化学の原郷」という印象的なフレーズを牛山、森本両師範が選んだ。
子どもプランニングフィールドの面々は、「子ども編集学校」の構想には欠かせない千夜をずばりチョイス。「幼なごころ」と「想像力」。これは人類に残された最後の資源なのだ。突起とリズムとふりを大事にしたい。
「女のはないき、男のためいき」というのは斎藤茂太だが、まずは「男のためいき」3セットをご紹介する。
ルイス・トマスの「役に立ちたい衝動」「矛盾・葛藤・弱点」を選んだ敷田、米川は、なぜか揃って被り物でドレスアップ。橋本参丞、オネスティー上杉のイケメンコンビはパサージュへのこだわりで胸を張った。吉田一穂のアナキズムを選んだ金、小桝には男の悲哀とダンディズムを感じる。
続いて、「女のはないき」3セットのご紹介。フラジャイルな雨情を選んだ大塚、後藤には隠しきれない松岡正剛への恋情が覗く。イシス の鉄板ディラードに撃たれたという木村月匠と福澤冊師の不思議なカメラ目線。「書く」ぞという意志と鼻息の現れだろうか。エレガントな丸&若林はパンセをチョイス。勇ましい一節を取り出した二人だが、それでも上品な風情を感じてしまう。
男と女のペア千夜からはどんな共通点が見出せるだろうか。物語派のラクダ白川と花目付・林はオースター。キーワードは「なじみ」だ。イシス 若手の佐藤英太とウメコは西行と恋心を寄せられた女院のようでもある。二人からは覚悟と切実が滲む。妹尾、荒木両師範代は『共通感覚論』の全く違う場所を選んでいるが、編集への熱情が共通感覚している。ベテラン景山、納富からは何やらほんわかした雰囲気を感じる。さもありなん。千夜再スタートの記念すべき一夜、よほど嬉しかったようである。
ラストを飾るペアはイシス 編集学校を言い換えたような千夜千冊である。「江戸の読書会」が現在化されているのが編集稽古だろう。そしてイシス とはまさに「世界制作の方法」の実践なのである。ここでも古澤師範代はとことんザリガニにこだわって見せてくれた。
さて、千夜一撃ランキングいかがだっただろうか。次回は、意外な人物が意外な一夜を選んでいる一撃帖を、千夜クロニクル的に紹介したい。
吉村堅樹
僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。
【知の編集工学義疏】第2章 <脳という編集装置>を加速させる
松岡正剛が旅立って一年。 今こそ、松岡正剛を反復し、再生する。 それは松岡正剛を再編集することにほかならない。これまでの著作に、新たな補助線を引き、独自の仮説を立てる。 名づけて『知の編集工学義疏』。義とは意見を […]
千夜千冊エディション『少年の憂鬱』に松岡正剛の編集の本来を読み解くべし。花伝所の放伝生が取り組んだ図解を使って、20分の予定時間を大幅にオーバーして、永遠の少年二人がインタラクティブに、そして「生」でオツ千します。 発熱をおしてやってきた小僧・穂積は大丈夫か? 坊主・吉村の脱線少年エピソードは放送可能か? エディション『少年の憂鬱』をお手元に置いてご鑑賞ください。
【知の編集工学義疏】第1章 <編集の入口>をダイジェストする
松岡正剛を反復し、再生する。聖徳太子の「三経義疏」に肖り、第一弾は編集工学のベーステキストでもある『知の編集工学』を義疏する。連載の一回目は、第一部である「編集の入口」をテーマに「第一章 ゲームの愉しみ」を読み解き、「編集」のいろはを伝える。2022年講義のダイジェスト映像とともにご覧ください。
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吉村堅樹による用法3解説「Analogical way is Dynamic way」
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コメント
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2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。