この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

1800夜達成を記念して、贈呈された「千夜一撃帖」。イシス編集学校の師範、師範代からAIDAの座衆、編集工学研究所、松岡正剛事務所のスタッフたちまでが、それぞれ1800夜から雷鳴に撃たれた一夜とワンフレーズを選び、いかにわたしは直撃されたかを吐露したものである。速報記事「祝1800夜! 松岡正剛を囲む千夜一撃帖の夕宴」で祝宴の一部を紹介したが、あらためて130名がどんな千夜を選んだのかをご紹介しよう。
もっとも多く選ばれた千夜はなんだったでしょうか? と聞くと、ほぼ全員が『良寛』と答えた。1000夜という節目の一夜でもある。イシス編集学校の10周年感門之盟で能楽師の安田登が朗誦しながら舞った一説、「切実を切り出さずして・・」を5人中4人が選んだ。
つづいて、3人が選んだのがヴィトゲンシュタインとパース。千夜千冊エディション『編集力』にも取り上げられている2夜。編集工学の先達としても当然のセレクトだ。ヴィトゲンシュタインは見事に「カタルトシメス」の一説が取り上げられている。パースの一節は小川、三津田、嶋本と読んでみると繋がるように読めなくもない。
ほぼ同じワンフレーズを選んだのが、森茉莉と宮沢賢治の2夜。森茉莉を選んだのは14離で典離を受賞した山口、寺田両師範代。二人とも汚れたコップがヴェネチアン・グラスになる想像力の持ち主のようだ。『銀河鉄道の夜』からは、「編集化学の原郷」という印象的なフレーズを牛山、森本両師範が選んだ。
子どもプランニングフィールドの面々は、「子ども編集学校」の構想には欠かせない千夜をずばりチョイス。「幼なごころ」と「想像力」。これは人類に残された最後の資源なのだ。突起とリズムとふりを大事にしたい。
「女のはないき、男のためいき」というのは斎藤茂太だが、まずは「男のためいき」3セットをご紹介する。
ルイス・トマスの「役に立ちたい衝動」「矛盾・葛藤・弱点」を選んだ敷田、米川は、なぜか揃って被り物でドレスアップ。橋本参丞、オネスティー上杉のイケメンコンビはパサージュへのこだわりで胸を張った。吉田一穂のアナキズムを選んだ金、小桝には男の悲哀とダンディズムを感じる。
続いて、「女のはないき」3セットのご紹介。フラジャイルな雨情を選んだ大塚、後藤には隠しきれない松岡正剛への恋情が覗く。イシス の鉄板ディラードに撃たれたという木村月匠と福澤冊師の不思議なカメラ目線。「書く」ぞという意志と鼻息の現れだろうか。エレガントな丸&若林はパンセをチョイス。勇ましい一節を取り出した二人だが、それでも上品な風情を感じてしまう。
男と女のペア千夜からはどんな共通点が見出せるだろうか。物語派のラクダ白川と花目付・林はオースター。キーワードは「なじみ」だ。イシス 若手の佐藤英太とウメコは西行と恋心を寄せられた女院のようでもある。二人からは覚悟と切実が滲む。妹尾、荒木両師範代は『共通感覚論』の全く違う場所を選んでいるが、編集への熱情が共通感覚している。ベテラン景山、納富からは何やらほんわかした雰囲気を感じる。さもありなん。千夜再スタートの記念すべき一夜、よほど嬉しかったようである。
ラストを飾るペアはイシス 編集学校を言い換えたような千夜千冊である。「江戸の読書会」が現在化されているのが編集稽古だろう。そしてイシス とはまさに「世界制作の方法」の実践なのである。ここでも古澤師範代はとことんザリガニにこだわって見せてくれた。
さて、千夜一撃ランキングいかがだっただろうか。次回は、意外な人物が意外な一夜を選んでいる一撃帖を、千夜クロニクル的に紹介したい。
吉村堅樹
僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。
コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。