宮前鉄也
編集的先達:古井由吉。グロテスクな美とエロチックな死。それらを編集工学で分析して、作品に昇華する異才を持つ物語王子。稽古一つ一つの濃密さと激しさから「龍」と称される。病院薬剤師を辞め、医療用医薬品のコピーライターに転職。
【ISIS BOOK REVIEW】芥川賞『荒地の家族』書評~ 介護者の場合
評者: 宮前鉄也 介護者、イシス編集学校 師範代 本の読み聞かせでは、読み上げる者とそれを聞く者のあいだに読書世界が立ち上がる。ふたりで面と向かって話し合うよりも、一冊の本から生まれる読書世界を通じて交歓す […]
【ISIS短編小説】一瞬の皹・日々の一旬 読み切り第九回 験(しるし)
13日前 消灯まで時間があるので、私の眼球は、病室の天井に屯するトラバーチン模様を見つめている。十秒も凝視すると、トラバーチンたちは葉に糸を張る毛虫のようにもがき始め、まもなく腰を落として構える小人の群れとなる。痛みで […]
【ISIS短編小説】一瞬の皹・日々の一旬 読み切り第八回 長屋の黴様②
【1】【2】【3】 江戸城本丸表向の東側にある中ノロには詰め部屋があり、諸役人は登城すると、まずこの部屋に入り、衣服を着替え、身なりを整えた。 白石と忠左衛門を載せた権門駕籠の一行が中ノロ門に差しかかる […]
【ISIS短編小説】一瞬の皹・日々の一旬 読み切り第七回 長屋の黴様①
【1】【2】【3】 正徳六年三月の早朝である。朝焼けの赤光は暗雲に呑まれ、落城の焔のように遠近の雲の陰でくすぶっている。過日のように長屋じゅうの溝板が踊り跳ねる叢雨もあろうかと、総後架と井戸の間で汚穢屋が空 […]
【ISIS短編小説】一瞬の皹・日々の一旬 読み切り第六回 粉黛の倣い
「なあ信さま、ここやここ、塗ってくんなまし」 撓垂れかかるような声がして、鯉籠の浅黒いうなじが信盛の眼前に差し出された。事終えた後の辛気にやられて面倒になったというよりは、甘える仕草で帰りにくくさせ、居続け賃をふんだくろ […]