Merci et Adieu満載の惜門會10shot

2022/03/06(日)08:18
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 2003年以来、編集学校に明るい灯をともしつづけた池澤祐子師範が彼岸に渡って81日を数える2月26日。彼の人の残り香がそこかしこに殘る本楼で、その不在を本と衣装と歌と花にしのぶ「惜門會」が開かれました。1期から45期の学衆が集ったその模様、10ショットでお伝えしていきます。

 

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 池澤さんとはおしどり夫婦で知られる”オットドッコイ”(おゆうさん命名)滋夫さんより託された400冊の蔵書、30点あまりのきらびやかな衣装の形見分けを目的に、「どこにいても池澤さんに包まれる」ようしつらえられた会場。物語講座綴師・赤羽卓美が魂を込めた動画・写真・言葉の編集ビデオ(2時間40分)がエンドレスで流された(本写真のみ撮影は赤羽卓美)。

 

 

 いつもはさまざまな知の飛び交う本楼だが、この日は千離衆でもある園芸デザイナー・塚田有一と里香夫妻による花の演出に彩られ、ドレスと持ち帰り自由の本が引き立つ惜門の空間に早変わりした。あちこちに置いたフォトフレームにも”隠れ祐子さん”がいっぱい。


 

 依り代をつとめた「仮名の母」の4文字。退院後の抱負を記した離論から取られたが、マダムを知る誰しもの共通の”おもかげ”となった。堂々たる楷書は、秘蔵っ子として可愛がられた師範代・篠原(旧姓:鈴木)郁恵が腕をふるった。元気な頃の祐子さんは、大分にある鈴木家の茶畑へ茶摘み娘として”韋駄天”したことも。書の上方には、送別の餞である「結び柳」。手前には会場設営を細大洩らさず率いた松岡事務所・太田香保の後ろ姿が見える。

 

 

 編集学校創立以前から松岡事務所とご縁のあったマダム・池澤祐子の「編系樹」は松丸本舗や帝京大学共読コース等を略してもこのボリューム。作成は月匠・木村久美子をデザイナー・穂積晴明がヘルプ。ぜひ拡大して足跡をたどってほしい。

 

 

 松丸本舗の名物BSEとして鳴らした池澤さんのため、元BSE大音・大野・小川・川田・森山がエプロン姿で集結。400冊の蔵書を「読み語る」「笑う」「歌う」「つながる」「よそおう」+「センセイと私」の6ゾーンに分け、キーブック各5冊を選定。ゾーンごとのフラッグも立ち、ほとんどの本が継承を果たした。

 

 

 会場の2か所には、「ピンクのオーラを纏う」「サービス精神旺盛な観音菩薩」等々、マダムお祐を形容する言葉をちりばめた全長3mの巨大バナー。制作は滋夫さん、出典は有志による応援誌「SUPPLI!」。佇んでいるのは、韋駄天サプリ教室学衆として展示を統括した師範の森美樹。 

 

 

 予定の合間を縫って駆けつけた校長・松岡正剛。滋夫さんとは初対面ながら、超然・飄然・泰然とした応接に思わず笑みがこぼれる。涙より笑いが目立つ會は目論見通りのマダム好み。松岡校長からは、演奏の後、池澤「おゆう」とのエピソードが語られ、「不在の在として、未在をおもう」との言葉も。

 

 

 歌仲間でもあった月匠・木村久美子は、「編系樹」作成、お汁粉調理と大車輪でこの日をサポートした。18時からの「歌のおもかげ・おもかげの歌」の時間にも一番乗りで登壇。師範・浅羽登志也司会のもと、滋夫さん、師範・三津田知子(エディットピラフ教室学衆)、BSE・川田淳子、千離衆・坪井美香がそれぞれの曲と池澤さんの関わりを述べるメッセージでなごりを惜しんだ。

 

 

 大好きだった祐子さんプロフィールとアイコンタクトしながら歌うソプラノ歌手・大音絵莉。伴奏をつとめた番記者・上杉公志との息もピッタリに「みかんの花咲く丘」「ラノビア」「愛の讃歌」「初恋」「ハバネラ」を熱唱。アンコール曲「オーソレミオ」では、「今日の私は”よりまし”で、自分を通しておゆうさんが歌っています」とメッセージを寄せた。

 

 

 寄贈・継承された本の1冊1冊に挟み込まれた「マダムお祐のコトノハと本棚」栞。裏表紙のハートを囲むのは、池澤祐子学衆の「たくさんの私」回答。栞デザインは2003年ハイパー汁講以来の盟友である破番匠・野嶋真帆。栞や写真出力など、もろもろの万端を引き受け、會をあたたかな空気に仕立てたのは、花伝所所長・田中晶子をはじめとする学林メンバーの笑顔と振る舞いだった。

 

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 アイキャッチ画像は、2021年9月に蓼科で「生きる」を歌う姿。まさに絶唱となってしまった映像だが、張りのある歌声から松岡校長の言う「善」も「義」も「勇気」も「挑戦」も伝わってきた。あれほど愛した本楼に在りし日の歌声を響かせられて、マンゾクゥ~と笑みこぼれていてくれればいいのだが。


池澤祐子さん、Merci, et Adieu!

 

 

(画像1以外の写真撮影は、大阪から駆け付けたイタリア旅行仲間の師範・木藤良沢。)

 


  • 大音美弥子

    編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引する。遊刊エディストでは、ほぼ日刊のブックガイド「読めば、MIYAKO」、お悩み事に本で答える「千悩千冊」など連載中。