稽古の花咲く43守番ボー名作選

2019/10/27(日)09:00
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 守の全校アワード「番選ボードレール(番ボー)」。
43守の締め切りは暑い盛りの7月7日、103名がエントリーした。
 番ボーのお題は「ミメロギア」。2つの情報の間に緊密に引き合う新たな関係を発見する編集ゲームである。
 「対比」と「らしさ」が際立っているか、驚きがあるか。師範は同朋衆となってエントリー作品を選好する。自身の好きも大いに持ち込む。
 同朋衆の数寄が香る賞名と講評を得た受賞作は、この30作品である。


==43守番選ボードレール 三賞受賞作(敬称略)==

 

●日傘・下駄◎和田同朋衆選
 イメージをふくらませる切れ味のいい見立てを取り上げ、三賞の名には日傘にも下駄にも似合う簪をあしらった。
<玉簪賞>
かくれんぼな日傘・かげふみな下駄(タイガー・リリー教室・佐塚琴音)
 ・それぞれの機能をあそびに置き換え、誰かの物語を想起させる。

<銀平簪賞>
骨皮の日傘・歯歯の下駄(タイガー・リリー教室・亀野晶子)
 ・突出する特徴を掬い出し、ユーモラスかつ見事に見立て。

<花簪賞>
絽に日傘・紬に下駄(どろんこコクーン教室・一條恭子)
 ・アーキタイプに肉迫し、一字に託した麗しい逸品。


●日傘・下駄◎浦澤同朋衆選

 日傘や下駄が登場する名作『狐』『たけくらべ』『外科室』を二文字に凝縮し、物語を感じさせる作品に配した。

<銅の月夜賞>
母の日傘・僕の下駄(墨攻センダード教室・田坂州代)
 ・「母」の面影とそれに連なる「郷愁」を浮かび上がらせる。

<銀の花簪賞>
いとさんの日傘・いたさんの下駄(蓮式パエーリャ教室・尾瀬嘉美)
 ・二人の優美さと凛々しさ、決して重ならない運命をほのめかす。

<金の秘密賞>
去りゆく日傘・立ちつくす下駄(合成ホロドラム教室・中島紀美江)
 ・ドラマチックな対比で、ただならぬ来し方行く末を連想させる。


●パスタ・素麺◎井ノ上同朋衆選

 想像力で文明と文化の境界にまで迫った作品に、直球勝負で金・銀・銅を贈った。

<銅賞>
展性のパスタ・延性の素麺(中入フラジオレット教室・多良幸恵)
 ・物質科学で攻めた遊び心のある見事な「見方のサイエンス」。

インダス越えのパスタ・ガンジス越えの素麺(あさってサンダル教室・畑勝之)
 ・西の文明と東の文化がせめぎ合う壮大な地政学的ミメロギア。

<銀賞>
シェフの気まぐれパスタ・はじめました素麺(仕立屋別人教室・宮澤来美) 
 ・食堂の看板の「あるある」に、鮮やかな対比を見いだした。

辻斬りパスタ・昼行灯素麺(非線形裏番長教室・三澤洋美) 
 ・時代劇のステレオタイプ的シーンの取り込み方が冴えに冴えた。

<金賞>
貝殻リボンアドリア海パスタ・光琳観世竜田川素麺(タイガー・リリー教室・亀野晶子)
 ・東西のトポスに多重多層に織り成したイメージのタペストリー。


●パスタ・素麺◎石井同朋衆選 
 託す、見立てる、包含する。日本ならではの方法で関係を掘り出した作品を選好。賞名はその方法に肖った。

<浮かぶ面影賞>
地中海のパスタ・瀬戸内海の素麺(はぐくみ温線教室・石田貴子)
 ・歌枕のように土地の力を借りて、読み手の解釈を刺激する。

口に広がるパスタ・鼻に抜ける素麺(玄米オキシトシン教室・岩田香純)
 ・見えない味と香りを想像して、唾液と涙があふれる秀作。

<切り立つ玲瓏賞>
渓流パスタ・滝素麺(中入フラジオレット教室・池野美樹)
 ・流れの速さとしぶき、映す木々や空まで生かし切った壮快さ。

<深まる豊穣賞>
太陽のパスタ・風の素麺(あさってサンダル教室・羽根田月香)
 ・風土や人の営みまでも包み込んで凝縮させた。

 
●蛍・金魚◎山根同朋衆選

 新たな関係線を発見すべく冒険的に向かった作品に、発見までのプロフィールを滲ませた冠を添えて。

<おどけてミメロギア・銅賞>
点滅蛍・横断金魚(バニー蔵之助教室・山本朋華)
 ・蛍と金魚を道路上に踊り出させた痛快なチャーム編集。

<ミメロギアに酔わせて・銀賞>
千鳥足の蛍・頬火照る金魚(墨攻センダード教室・北村彰規)
 ・儚い命の瞬きに酔いしれる蛍と金魚のらしさを紡ぎ出した。

<ミメロギアはミステリー・金賞>
妖光な蛍・妖艶な金魚(仕立屋別人教室・八木尚子)
 ・古来より人を魅了してやまない蛍と金魚の謎を際立たせた。


●パン・ペン◎川野同朋衆選

 講評に登場したのは3人の妖精。人間の内面までのぞき込んだ作品を目利きし、祝福というかたちで讃えた。

<ピンのお気に入り☆シルバーのペンの祝福>
リビングにあったユダヤ人のパン・屋根裏部屋にあったアンネのペン(仕立屋別人教室・八木尚子)
 ・「抑制された雄弁なフレーズ」が気持ちや思考を揺さぶる。

<ポンのお気に入り★黄金色のパンの祝福>           
ユースフルなミルクパン・マジカルなアップルペン(夢行ワンピース教室・水原三香)
 ・「パン」「ペン」の再解釈で一対の概念の対照を立ち上げた。

<プン様のお気に入り◎澄み渡る慈悲の祝福>
分け合うパン・貸し出すペン(当方見聞録教室・常盤由枝)
 ・品物の属性や機能をよく踏まえ、新鮮な関係を発見した。


●サロン・カフェ◎池澤同朋衆選

 3Aをエンジンに生み出された作品を選好。特に際立つ方法のらしさを和・洋(仏蘭西)の一種合成で仕上げた賞名で称賛。

<華セラヴィ賞>   
高嶺のサロン・路傍のカフェ(中入フラジオレット教室・池野美樹)
 ・文芸的な芳しさと浪漫に満ちた二文字で麗しく見立て。 
<茶々エスプリ賞> 
茶室からサロン・茶屋からカフェ(仕立屋別人教室・三浦史朗)
 ・茶を地とし、往還しながら和魂洋才の景色が立ち上がる。

<智レスポワール賞>
衆知のサロン・周知のカフェ(当方見聞録教室・乗峯奈菜絵)
 ・網羅と3Aで情報の本来をたぐりよせた。


●サロン・カフェ◎桂同朋衆選

 センシティブに違いを魅せた作品を選好。鮮やかな作品とその奥にある方法のらしさが賞名にも花開く。

<多層アラモード賞>
ベルベットのサロン・リネンのカフェ(蓮式パエーリャ教室・徳応学)
 ・対になる言葉を丁寧に編み上げ抜群のらしさを見出した。

<呵呵オノマトペ賞>
ホホホサロン・フフフカフェ(合成ホロドラム教室・佐藤伸起)
 ・シンプルなオノマトペで豪胆にイメージを語り切った。

<渦巻ソレイユ賞>
渦潮のサロン・黒潮のカフェ(夢行ワンピース教室・河野仁)
 ・遠いイメージを原型の対比で結び逢わせた。


●偶然・必然◎白川同朋衆選
 方法を使いこなし、かつ、馥郁たるストーリー性を孕んだ作品に作家の「らしさ」を重ねて。 
<ブロンズ エドガー・アラン・ポー賞>
罪の偶然・罰は必然(仕立屋別人教室・関 昭美)
 ・「信賞必罰」が重く響いて、読む者の心にさざ波を立てる。

<シルバー フランツ・カフカ賞>
三日月の偶然・満月の必然(タイガー・リリー教室・槻岡佑三子)
 ・月の満ち欠けにわれわれが抱くおもかげを思い起こさせる。

<ゴールド セルバンテス賞>
ちぎれる偶然・すげる必然(どろんこコクーン教室・柿沼沙耶香)
 ・鼻緒で関係線を結び、その後のロマンスさえも想像させる。

 

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別院に公開された番ボー講評は、ミメロギア作品を輝かせる舞台であり、新たな意味の花園である。加えて師範渾身の編集稽古の場でもある。

  • 石井梨香

    編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025