32[花]花伝講義録「推感リバースエンジニアリング」

2019/11/18(月)13:18
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  イシス編集学校は、コーチの育成にも渾身の編集を重ねている。

  講座はオンラインでのやりとりがメインだが、編集コーチには

  必ずリアル講座での研鑽機会が設けられている。今回は師範代

  養成コース「花伝所」入伝生に向けられた講義をチラ見せ公開。

  講師が変われば言表も変わる。「リバース・エンジニアリング」

  について、深谷もと佳師範が仕事柄とイシス柄をかさね伝えて

  いるところを、どうぞ。


 
 

■編集プロセスを「BPT」で捉える

 

 美容師はお客様の髪を切ってヘアスタイルをつくります。この作業プロセスは「BPT」の型で表現することができるでしょう。ベース()からターゲット()へ向かって、プロフィール()を描いて編集が進んで行くわけです。

 

32[花]花伝講義録「推感リバースエンジニアリング」
 こんなふうに「型」(モデル)をあてはめると、いろいろな物事を同じフォーマットで説明することが出来ます。似ているところや、ちょっと違うところも見えやすくなったりします。

 この作業プロセスの地を師範代を置き換えれば、編集稽古のBPTは下図のように描けるでしょう。まず教室に学衆さんから回答が届く。そして、師範代となったみなさんはそれに指南をつける。

 

 

 さてこのとき、ターゲット()はどんなことが想定されるでしょう?

 ちょっと考えてみてください。

 

 

■編集稽古はどこへ向かう?

 

 美容師の場合、お客様は何かを変えたくて美容室に来店されます。可愛くなりたい、サッパリしたい、カッコよく見せたい、キチンとしたい…。イマココの私からイマココではない私へ、HereからThereへ移動したいということです。

 

 

 「二軸四方」の稽古を覚えていますか?二軸四方には2つのタイプがありましたね。
 一つは、4つの方向が均等な力で引き合う「四位一体型」。「喜怒哀楽」だとか「花鳥風月」がこれに当たります。もう一つは「老若男女」や「東西南北」といったような。2つの対比軸が交わる「直交座標系」です。
 

 

 この直交座標系では、対比軸のアチラとコチラが滑らかなグラデーションでつながっています。アレかコレか、○か×かではなく、0から100までの間には隙間なく目盛りが連なっているんです。

 ということは、BからTへのプロフィール(P)には無数の「別様の編集可能性」が存在しているということです。

 

 

 イマココから、どちらへ、どのくらい進むのか。その方向、距離、速度といったような程度のことを「メトリック」(測度)と呼びます。このメトリックを想定することが、すなわち「編集方針を立てる」ということなのです。

 

 さてでは「編集方針を立てる」ためには何をどのように考えたら良いでしょうか?こちらの勝手で方向づけできるものではありませんよね。

 

 

■編集は与件からはじまる

 

 大切な考え方のひとつは、「編集は与件からはじまる」ということでしょう。
 BPTの「B」は「与件」と言い換えることができます。そして「与件」には必ず何らかの「地」が紐づいているものです。
 髪を切りたい人には切りたい理由や、切らなくちゃならない事情があります。編集学校に入門する学衆さんにも、みなさんがそうだったように何らかの動機や、経緯や、野望や、好奇心などがあることでしょう。

 

 

 ですから、師範代として学衆さんの回答に接する時、美容師としてお客様の髪に触れる時、私たちは何をおいても先ず、そこに図として現れている与件の来し方や、背景や、構造に「注意のカーソル」を向けることが大切です。そしてその与件のを読み解くこと。

 つまり編集の第一歩は与件について「リバースエンジニアリング」することから始めなくてはなりません。

 

◇リバースエンジニアリングとは、仕上がった製品などを分解して、その部品の形状や機能や関係や組み立てプロセスを知っていく逆行工学のこと。◇機械工学の分野に限らず、自然現象や認知プロセスに対してもはたらく。

 

 

 リバースエンジニアリングは、ただ与件を分析、分解して終わるのではなく、「地」に潜む情報を持ち帰って再編集を掛けるところまでが一続きです。
 美容師は、お客様の髪をカットしてヘアスタイルをつくる。その作業プロセスは一直線に三間連結の如く進行することはありません。たとえば、みなさんもよくご存知のように美容師はいきなりお客様の髪にハサミを入れることはいたしません。まずお客様のご要望をお聞きします。つまり「与件の整理」を行うのです。

 次いで何をするか?
 まだハサミを握ることはしません。「こんなヘアスタイルはいかがですか?」と編集の行方を仮設、仮想して「仮留め」するのです。そして、仮留めしたターゲット(T)からリバースエンジニアリングして作業のダンドリ(P)を組み立てる。その後ようやくハサミを動かし始めるのです。

 

 

 こうした編集の進め方は、師範代にとっても同じことでしょう。

 教室へ学衆さんから届く回答には、様々な思いや数寄や発想やこだわりが詰め込まれています。その思考のプロセスを、師範代は回答から遡って推理、推察するのです。そしてその推察を与件と照合しながら、編集稽古のターゲット(T)を想定して行くわけですね。

 

 

 つまり編集を前へ進めるためには、推感をはたらかせたリバースエンジニアリングが求められているのです。

 

 

■進むためにリバースする

 

 「こう考えたのかなぁ」、「ああ考えたのかなぁ」と編集過程をリバースして推理推察することを「レトロダクション」と言います。
 そして、レトロダクションによって推察した情報を元に、編集の向かう方向や帰着点を仮設、仮想することを「アブダクション」と言います。

 

 

 いま「レトロダクション」と「アブダクション」を区別して説明しましたが、通常編集学校では両方まとめて「アブダクション」と呼んでいます。どちらも推理的な思考方法による推感編集です。
 「レトロダクション」と「アブダクション」の違いは矢印の向きがリバースかフォワードかの違いだと考えてください。アブダクションは過去へも遡るし、未来へも羽ばたくのです。
 同じように「リバースエンジニアリング」はイマココを起点に過去へ遡行するだけでなく、仮想した未来を起点にイマココへ向けて逆行することもあるでしょう。つまりBPTの実際は、推感編集が非線形のタイムライン上を往来するのですね。
 こんなふうに、三歩進んで二歩下がるような、行きつ戻りつしながら進める編集のことを「フィードバック」と言います。

 

 

 学衆さんから届いた回答に、どんな指南で応じるか。
 言葉のモード、言葉のホド。何を言って、何を言わないか。今すぐに伝えるか、もう少し先へ進んでから伝えるべきか。
 こうした微妙な編集のサジ加減は、アブダクションとフィードバックを繰り返し、何度も何度も仮留めをカサネながら、手応えを感じつつ応じて行く「推感リバースエンジニアリング」のカマエが大切です。


  • 深谷もと佳

    編集的先達:最相葉月。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて、人情に厚い。趣味は筋トレ。編集工学を体現する世界唯一の美容師。

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