編集かあさん 地震の話

2021/03/20(土)10:17
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。


 2021年3月11日午後

 3月11日の午後、長女(7)が学校から帰ってくるなり「ねえ、私がまだ生まれてない時に、すごい地震があったんだって。今日学校で習ったよ!」と息せききって話し始めた。「教室のテレビで見たけど、ものすごく揺れてて、映画みたいにビルの上が崩れてきたてて、びっくりした。学級通信にもあるから読んで」としばらくとまらなかった。うん、あったよ。覚えてる。そのあとどう話そう。学級通信をランドセルから取り出すにも少し逡巡する。
 長女がおやつを食べてから、長男が、録画していたNHKの『サイエンスZERO』を再生し始めた。テーマは「3.11から10年 地震学者たちが挑んだ“超巨大地震”」。3月は三週連続で、大地震と福島第一原子力発電所の特集になっている。

 長男(13)は、地震のことを学校のような場所で教えられるのが苦手だ。先生にそうしなさいと言われるように、祈ったり、寄り添ったりすることもしない。それでも、家族の中でもっとも地震について考えている時間が長いのが長男である。
 南海トラフ地震等の巨大地震の予兆を捉えるために、巨大海底観測網が張り巡らされていることや、地震にまつわるビッグデータの解析が日々行われていることを感じるように知っている。2月13日の福島県沖地震の時も、地震発生から数時間後に出される気象庁からの報道発表を待って即時にプリントし、読んでいた。
 朝起きると机の上にクリップで止められた資料の束があった。夫によると、夜中に部屋にやってきてずっと地震の話をしていたという。

2021年2月13日の福島県沖地震報道資料

 

 情報の形

 東日本大震災の時、長男は3歳だった。地震や津波のことをどう伝えたらいいのかということを考えるより先に、関心を持ち始めていた。気象分野への興味は、もともとは気象現象への「不安」に端を発していたように思う。幼いころ、人一倍、雨や風、稲妻の音や光を怖がり、雷雨の時は襖の部屋に閉じこもっていた。不安がいつしか「大いなる力」への関心に転じていった。
 かこさとしさんの絵本や、図鑑を飽きず読み、11歳ごろからはネットで常に情報をチェックするようになった。
 関西でずっと暮らしてきた者にとって、体感をもって思い出せるのは阪神淡路大震災だ。東日本大震災については、多くの事象はマスコミやイシス編集学校の友人から伝え聞く形で知った。
 そんな私たち夫婦が東日本大震災を、いつか伝えようとしてしたことの一つが震災時の新聞を残しておくことだった。思い出すための情報の依り代、形になるような予感があった。6年生の時に出した。

 

2011年3月12日の新聞。マグニチュードは後に9.0に修正された


 長男が結び目となって浮かび上がってきた対角線が、小3から小5まで長男の学級担任だったY先生である。いつも「いわき」ナンバーの車で通勤されていた。実家は福島県浪江町で、震災をきっかけに関西に移り住むことになったと聞いた。
 Y先生は、他の先生とは少し違った。教科書にないこと、例えばオタマジャクシやメダカを子ども達に「育ててみたら」と配ったり、学校に田んぼをつくるというチャレンジを二年越しで実現されたりした。
 長男は学校の授業を離れたあとも、放課後などに時々話に行っていた。モーターカーを空き教室で走らせた。ペットボトルロケットはあまりにもおもしろそうだったから、みんなにまじって打ち上げた。会議があっても「まだ大丈夫」と、一時間以上もおしゃべりが続いたこともあった。学校をアウトプットの場とすることを促してくださり、廊下には長男の作ったA4の「やさい新聞」が何枚もひらひらすることになった。
 先生は「その場コミュニティ」を信条にされていた。言い替えればルル三条を「場」と「人」に応じて動かす力と勇気を持たれていた。「福島」は、次第に先生の福島イントネーションとともに想起される土地となっていった。

 ニューロ・ダイバーシティ

 この原稿を書き終えようとしていた3月15日にも和歌山で震度5弱の地震が起こった。
「マグニチュード4.6、けっこう大きい。震源の深さ10キロだから断層型で、プレート境界に関係する地震じゃない」。
 長男がニュースを読んで一気に話す。プレート境界に関係する地震だと南海トラフに関連するって思う? と問うてみる。
「そう。南海トラフ地震は、2050年までには必ず起こると思ってる。どれぐらいの規模になるかはわからないけど、高知のあたりが少しずつ隆起しているらしいから」
 子どもと話していると未知な情報が次々に出てくる。

 何が未来のために役立つかなんて、誰もホントにはわからない。不確実な未来のためにダイバーシティが大事なのは、生物の種の多様性でも、文化の多様性でも、またニューロ・ダイバーシティでも同じことなのだ。

 『江戸とアバター』(池上英子・田中優子/朝日新書)の一節が浮かぶ。これまでは、やるべきこととされることをせず、気象サイトを潜るように読むことは本人にとっては必要なことなのだという捉え方をしていた。しかしそれでは不十分で、もしかしたら、そういった「愚行」を包摂することが、本来、不確実な世界全体にとって必要なことなのかもしれない。例年よりも12日も早いという桜の開花のニュースを聞きながら考えた。

〇編集かあさん家の本棚

『地球 その中をさぐろう』加古里子著/福音館書店
『地球・気象』ニューワイド学研の図鑑
(書影:アイキャッチ画像)


▽編集かあさん家の地球儀

 

 


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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