編集かあさんvol.38 事件とメディア

2022/07/30(土)08:29
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。

 

 選挙の前

 参議院選挙投票日の3日ほど前、食卓で、14歳の長男が選挙権を持つまであと4年だという話になった。9歳の長女はあと9年だ。
 えっという表情になった長女から「ぜったい投票しなきゃいけないの?」という質問が飛び出した。
 投票はしたほうがいい。投票所に行って、名前を書いて入れるだけだからと夫が話すと「前に、ついて行ったから知ってる。けど、どうしてわざわざ行かないといけないの」という。

 世の中への影響

 かわいいものが大好きで、友達と遊ぶこと、ゲームをすることが楽しい長女にとって、今のところ、選挙には関わりたい要素が見あたらないのかもしれない。これから、日々の会話や学校の授業、本やニュースを通じて「社会の見方」が変わっていくと、「選挙権を行使しよう」という思いを持つようになっていくのだろう。
 “あと4年”の長男は「投票は行くつもり」だが、“どもる”のと少し似ていて、文字をスラスラと書きにくい特性がある。だからいつか電子投票になったらという。
 「それに今は、投票するよりも、ツイッターでつぶやくほうが世の中に影響を与えられると思ってる人も多いんじゃないかな」。
 一票の影響力とツイートの影響力、スコア化したらどうなるのだろうか。

 人が撃たれる事件

 投票日の2日前の金曜の昼、「西大寺の駅前で安倍さんが撃たれたらしい」と夫から電話がかかってきた。大和西大寺駅は職場の最寄り駅だが、巻き込まれずに済んだとそれだけ言って切れた。
 長男がテレビをつけ、PCを立ち上げた。事件のあった場所は自宅から西北に直線距離でおよそ4キロ。窓の外にヘリコプターが飛んでいるのが見える。テレビにそのヘリコプターが撮る風景が映っている。
 長女が小学校から帰ってきた。長男はテレビを消音モードにする。
 それでもただならぬ雰囲気であることは伝わる。ヘリコプターは3機に増えている。窓を閉めていてもかなり大きな音が入ってくる。
「何? 何が起こったの? 人が撃たれたの?」
 長男が説明する。夫から電話があったことも言う。長女にとって西大寺はお父さんの仕事場の近くで、休みの日に買い物に行く場所でもある。

 知ったら知らせる

 長女は、金曜日の午後はいつもピアノを習いに行っている。
 ピアノの先生に会って第一声が「今日、お父さんがびっくりすることがあったんだよ」だった。
 知ったら知らせたい。情報が伝播していく力の強さを知った。
 帰ってきてメールを開くと、小学校から「犯人は確保されていますので安心してください」というメッセージが届いていた。


 情報を集める

 長男は、いつもニュースは一つの放送局をベースにしているが、この日はネットで各局の報道を比較しながら見ていた。
「NHKで、その時の映像が出てる。煙がおどろくほどすごい」。
「ドクターヘリが離陸したのはどこの空き地だろう」。グーグルマップを使って調べる。合間に庭に出て、ヘリコプターの写真を撮る。

 

望遠レンズで報道ヘリを撮る

 

同じところを何度も旋回する報道ヘリ「鳥に比べれば撮りやすい」


 同じニュースが繰り返し流されるが、時間が経つにつれて少しずつ新しいことが出てくる。全部は一緒には見られないが、話しかけられたら手をとめて聞くようにする。
 長女はピアノから帰ってきたあと、しばらく一緒にニュースを見ていたが、夕方からは普段通りタブレットでゲームを始めた。
 長男は深夜まで調べ続けた。さすがに疲れたようだった。
 土曜日は大雨で、ヘリコプターの音がやんだ。


 事件と選挙の後

 日曜日、投票に行く。夜、開票速報特番を見る。
 長男が注目していたのは参政党だった。結果を見て「ネットの影響が急に大きくなった気がする」という。
 長男ほどネットを見ていないので気がつかなかったが、ツイッターをチェックしているとそう見えてしかたないらしい。
 長女には「おかあさんは誰に入れたの? 入れた人は当選したの?」と聞かれる。誰に投票したかは秘密にしていいことになっていると夫が話す。
 月曜日の朝、長女の担任の先生から事件に関連して「日本は一人ひとりが主役の国です」という話があったらしい。 

 ヘリコプター

 事件から一週間後の7月15日、歯科検診の予約が入っていたので大和西大寺駅に降りた。
 多くの人が立ち止まり、スマホで現場の写真を撮っている。花を手にしている人も少なくない。
 献花台のわきには、テレビカメラが2台設置されていた。
 夜、長男に昼見てきた光景を話す。それから、望遠レンズで撮っていたヘリコプターの写真を一緒に見直してみた。
 毎日新聞、MBS、ABC。拡大すると、どのヘリコプターにも新聞社やテレビ局の名前が入っている。
 「普段見るヘリとちがって、カメラが外付けされているっていうのは撮りながら気づいたけど、ぜんぶロゴが入ってるのは今初めて気づいた」
 みんな自前で持っているのか。「ソリ」の部分があるタイプとないタイプなど、見比べてみると細かな違いがある。おもしろい。

前方下部に黒いカメラが付いていると初めて知る

 

 上空からの写真も、個人の卒業アルバムも、スマホ映像も、有事には否応なく大きなメディアに載せられてしまう。そんな世界で生きるにあたり、メディアそのものを俯瞰する視点はどこかで持っておいたほうがいいと考えている。
 学校などの学びの場で、方法的に手渡されているだろうか。そういうことを大人どうしで交し合う場をなかなか持てていない。

 

7月15日の大和西大寺駅前

 



*ヘリコプター撮影:マツイコウタ


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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