編集かあさん家の『情報の歴史21』

2021/06/13(日)09:54
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。



 届いた!

 2007年生まれの長男、『情報の歴史21』(編集工学研究所、松岡正剛監修)の出版を心待ちにしていた。本棚にある『増補 情報の歴史』には、1995年までの年表しか収められていないからである。
 長男がテレビやネットでニュースを見るようになったのが2013年ごろ。『情報の歴史21』なら、自分の知っていることが載っているはずだ。
 予約注文していたので宅配便で届いた。箱を開けてぱっと開くと1912年。「そうか、1900年ぐらいが本のちょうど真ん中なんだ」。
 それから腰を据えて、1996年から1ページずつめくって読み始めた。
「1996年コンビニ3万店超」
 高校時代だ。そのころまだ奈良にはコンビニ少なかったよと思い出して話す。
「2004年フェイスブック、2005年ユーチューブ、2006年ツイッター。2007年はアイフォン、ニコニコ動画、初音ミク、そうそう、今使われてるサービスってだいたいこのあたりに出てきたんだな」
「おサイフケータイ。名前は聞くけどイメージできないものの一つだ。見出しになってるけどそんなにすごかったの」
 楽天の創業、グーグル検索の開始、ウィキペディア開設。話がとまらない。

iPhone、ニコニコ動画、初音ミク(2007年)

イラク増派、エストニア電子投票は、たまたま生まれ年だったから目にとまった歴象


 2018年6月12日は米朝首脳会談。妹の6歳の誕生日に重なってたことを思い出したという。歴象と自分史に対角線を引いていく破のクロニクル編集術は、子どもの縦横無尽にアブダクションしていく歴史の見方に発していたのかもしれないと気がつく。
「2000年、イシス編集学校って字が大きくない?」とツッコミをいれたり、冥王星の撮影成功、系外惑星の発見など、天文関係の情報が多いことに触発されたりしながら、あれこれ自分で記憶していることを思い出して語る。
「ほら、日本、人口減だって」
 大人があまり考えたくなくて見ないふりをしていた歴象も、会話に入ってくる。

日本、人口減(2005年)

 

 

 正誤表

 歴象が記されている最後の見開き、2020年「葛藤する境界」(p.500)で長男の手がとまった。
 「新型コロナウイルスの2020年人数データ」の「日本国内感染者数」の欄をみて、「これって、違うと思う」と言い出した。「2020年1月で171人って、多すぎる。だってダイヤモンド・プリンセス号の報道が始まったのが2月のはじめだよ」。
 違うというのは明らかだ。じゃあ、何の数字なんだろう。他の国の感染者数なのだろうか。新聞を見ても見当がつかない。
 各国のコロナウイルス関係のデータを集積しているジョンズ・ホプキンス大学のサイトにアクセスしてみる。フランス、ブラジル、タイと調べていくが、どれも違うようだ。
 編集部にメールして尋ねてみることになった。その返信で、「世界累計死亡者数」であることがわかる。「すごく納得した」と回答いただけたことに感謝する。
 4月末、奈良の駅前の書店に『情報の歴史21』を並べたいという思惑もあり、マーキング用にもう一冊買うことになった。
 書店で撮影させてもらったあと、持ち帰って開くと「あっ! 正誤表が挟まってる」
 メールで問い合わせた件が記載されている。そのほかの正誤ポイントも「気づかなかった」と言いながらチェックした。

電子版正誤表にもアクセスする


 
 2021年のクロニクル

 その後も何か私が調べ物をしていると、ついでに見ていく。
 「やっぱりすごいな。書いてあるかなと思うことが、ほとんど書いてる。これは書いてないだろうなと思っていたことも書いてたのはびっくりした」
 そう感じるのは、天文分野の発見や音楽ジャンルのテクノロジーなど親の知らない歴象が多い。どんな人が掲載する情報を選んだんだろう。歴史そのものだけでなく、それを選んだ人にも興味がわいてくる。
 『情報の歴史21』読書経験は、今たとえ周りと話が合いにくくても、世界のどこかには関心が共通する人がいるという、どこか希望にも似たものにもつながっていった。読む前は予想していなかった。

子どもが知ってることを知る

 

 2018年生まれのいとこがいる。この秋に妹か弟が生まれることになったと連絡があった。「お兄ちゃんは平成生まれで、妹か弟は令和生まれになるんだな。大きくなった時どんな感じなんだろう」と想像しはじめた。
 2021年のページは空白になっている。誕生祝いとして年表を作って、プレゼントしてみようかな、どう一緒にやる?ともちかけてみた。
 「えっ、めちゃくちゃむずかしいと思う。あんなに情報って集められるのかな」と言いつつ、ちょっと本気になっている。



〇編集かあさん家の本棚




情報の歴史21
松岡正剛監修 編集工学研究所&イシス編集学校構成
編集工学研究所
https://shop.eel.co.jp/products/detail/251

 

【両隣にある本】

『せいめいのれきし 改訂版』

バージニア・リー・バートン 文・絵 , いしいももこ 訳 , まなべまこと 監修
岩波書店

『平成ネット史 永遠のベータ版』
NHK『平成ネット史(仮)』取材班 著

幻冬舎 

 

 

 

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。