「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
ジャガイモに実がついた
5月半ば、長男(13)が、庭で育てているジャガイモに実がついているのを見つけた。
種イモで増えるジャガイモは、花が咲いても受粉して実をつけるのは稀である。つけたとしても、本州では小さいうちに落ちてしまうことがほとんどだ。
実がついたということは種子が取れるということである。ジャガイモ栽培5回目にして初めて。種子が熟すまでどれぐらい待てばいいのだろう。理科センセイである盛口満さんの本、『ゲッチョ先生の野菜探検記』にも、実を見たことがあるというエピソードだけで、熟し方までは書かれていなかった。
一つだけ生き残る
日々観察しているうちに4個が落ち、1個だけ残る。落ちたものを切ってみた。「種ができてる。でもちょっとまだ若いかな」。
7月はじめ、ついに耐えていた最後の1個も落ちた。拾いあげて詳細に観察する。前のと違ってへたが枯れ気味で、少し柔らかくなっている。
においをかぐ。「甘いにおいがする!」。長女(8)が「私も」というので、鼻先に持っていくと「抹茶に似てる」。それを聞いて、3人でもう一度かわるがわるかぐ。「うーん。ちょっと過ぎたパイナップルにも似てるかもしれない」。
ジャガイモは、ナスやトマト、ピーマンと同じナス科である。その実から、抹茶とパイナップルが合わさった香りがでてくるとは驚きだった。
種を取る
大きさおよそ2センチ、一見、青いミニトマトである。長男には、ヘタの形などからナス寄りに見えるらしい。大きさと重さを計ったあと、種子を採取するために、包丁で真っ二つに切る。
「予想よりとろっとしてる。トマトとはちょっと違うとろみ。これはたぶん洗い流すほうがいいんだろうな」。
汁をちょっとなめてみる。「うーん、おいしくない。けど毒があるとまでは言えないと思う」。本やサイトによって毒の有る無しが分かれているらしい。
種子の周りに独特ぬめりがあった(※)
種の色は白色で、ナスやトマトよりも小さい。ときどき茶色いものが混じっている。
「こんな小さくて、ほんとに芽が出てイモが育つんだろうか」と言いながら、茶こしに入れて注意ぶかく流水で洗う。
キッチンペーパーの上に置いて一日乾かし、封筒に収める。ラベルを貼って、種保管ボックスに入れた。
いつ種まきするのか聞いてみたら「わからない」。楽しみがなくなるから、あえてまだパソコンで検索していないという。
封筒にラベルを張って保管ボックスへ
考える
長男は、春から夏にかけて10品種のジャガイモを育てていた。そのなかで実をつけたのは「西海31号」という品種だった。赤い皮と赤い肉が特徴で、「ドラゴンレッド」という名前で売られていることもある。
おもしろいのは、プランターに植えて手厚く世話をしていた株ではなく、前のシーズンに育てて、小さすぎて収穫せず、地中に埋まっていたイモから勝手に生えた株に実がついたということである。
「土が固いし、栄養がないから、イモじゃなくて種を残そうと思ったのかな」。植物というのはストレスがかかると花を咲かせて子孫を残さねばというスイッチが入るんじゃないかと推論する。
掘ってみると、一個だけ大きめのイモがでてきた。
西海31号の花
赤い皮が特徴(※)
はじめて手にしたジャガイモの種子、どうやって育てるかの手本は身近にはない。通常、種イモから育てたイモは、親とほとんど同じ性質を持っているが、種子から育てる場合は異なる形質が出てくることが多い。皮は赤いのだろうか。花の色は親と同じ薄紫なのだろうか。
家庭菜園では稀だが、ジャガイモの品種改良は19世紀から盛んにおこなわれていて、すべての新しい品種は「種取り」から始まっている。
「試験場なんかだと、けっこう受粉させたり、種から育てたりしてるはずなんだ」。今、世に出ている様々な品種は、どれも何千株も育てて、何年もかけて選抜されるというプロセスを経てデビューしている。
「ちょっとだけ調べてみたら、まく時期は3月頃、ナス科のまき方でいいみたい。芽さえ出たら、なんとか小さなイモはできそうな気がしてきた」。来年やりたいことが、どんどん決まっていく。
(写真提供:長男、※は筆者による)
〇〇編集かあさん家の本棚
『ジャガイモの絵本』(よしだみのる 編 さいとうやすひさ 絵、農文協)
サイト:じゃがいも品種詳説(日本いも類研究会)
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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