編集かあさん家の千夜千冊『電子の社会』

2022/05/10(火)14:50
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 編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。



 『電子の社会』の字紋は何?

 24冊目になる千夜千冊エディション『電子の社会』を駅前の本屋さんで買ってきた。
 いつものように椅子の上に置いておくと、14歳の長男が目をとめて「新しいの出たんだ。今回の漢字はなんだろう」とのぞきこんだ。
 千夜千冊エディションは、テーマを一文字で要約した漢字が裏表紙に書かれている。そして表紙と帯に漢字を素にデザインされた「字紋」があしらわれている。たとえば『本から本へ』は「本」、『日本的文芸術』は「文」だった。
 まだ裏表紙を見てないから知らないと言って確認しようと手を伸ばした。すると長男が「ちょっと待って、表紙の模様から当ててみる」とさえぎった。
「そもそも、どの方向から見たらいいんだろう」。
 傾けたり、首をかしげたりして考える。真ん中に四角形がある。画数は少なそうだ。
 指でなぞったりするが、見当がつかない。「亜」は『大アジア』でもう使っている。一度「F」に見えてしまうと、そこから離れられなくなってしまった。


本を傾けたり、字をなぞったりして推理する

 ヒントを考える

 10分ほど考えて、長男は「もう見ていい?」
 かあさんはもうちょっと粘りたい。見えないように少し離れる。本を裏返してみた長男は「ああ、なるほど!」
「電子っていう感じは少ないかな。最初はわからなかったけど、社会っていう感じは確かにあるかも」
 画数はどうかを尋ねると、「少ない」。 
 「音読みだと一音。訓読みだと、たぶん、送り仮名は“い”だと思う」
 小学生向けの漢和辞典を開いて学年別の漢字表を見る。一文字ずつチェックしていったが、一緒に見た長男が「ここには無い」という。中学校で習う漢字まで射程に入れて見ていく。
 交流の交……ではない。もしかして「互」?
「正解。互換性の互。そう考えると電子っぽい」。
 「互い」にと読めばヒトの社会だ。


答えは「互」だった

 エディット・ギャラリーとプロフィール写真

 ページをめくって口絵の<エディット・ギャラリー>をみる。
「これはきっと、データセンターに行って、本を置かせてもらって、撮ったんだね」。
 めくると下に「協力:ネットワンシステムズ株式会社テクニカルセンター」と記されている。
 ついで著者プロフィール写真が目に入った。「おっ!」という声が出た。
 プロフィール写真がテーマにあわせて毎回変わるというのもこのシリーズの特徴だが、今回は松岡正剛校長がVRゴーグルを装着している写真である。「ついに顔が出なくなった」。ここまできたかとおもしろがる。
 本の「前口上」を聞かせるともなく音読してみる。最後の一行「それなのに電子社会の哲学はまだ用意すらできてない」を耳にした瞬間、「今は哲学の時代じゃないと思う」とつぶやくように言う。
 どういうこと?
「わからないけど、直感的にそう思った」
 現在、中学校3年生段階である長男の環境には、まだ哲学要素はほとんどないのかもしれない。
「今は考えさせる方向になってないもん。目立ったら攻撃される時代だから」。最近話していた言葉を思い出した。


 ほんとに?

 帯に戻る。

 

 知がデジタル化し、私はサイボーグ化する。―ほんとに?

 

「知」、「デジタル化」、「私」、「サイボーグ化」が太ゴシックになっている。
「『ほんとに?』は『ほんとに?』って感じがする」。
 そもそもサイボーグって知ってるかどうか聞いてみる。
「言われてみれば、あんまり知らない」。
 やっぱり。サイボーグ009も、ターミネーターも、攻殻機動隊も、みんな長男が生まれた2007年より前に作られた物語である。いきなり第三章の「インターネット全盛」の時代に生まれているのだ。

長男がこれまで使ってきたマウス。

 椅子の上に、本と一緒に置いていた新聞のトップ記事は「ツイッター、マスク氏と買収合意」だった。ツイッターを見ることが日常になっている長男にどう思うか聞いてみると「あれは公共空間だからマズイ気がする。なんでもありになってしまう可能性がある。けど、思いきってはいると思う」という。

フェイスブック、ワッツアップ、インスタグラム、ティックトック、ツイッター。
「一つも日本の会社がないのはなぜだろう」


 日本には思いきったことをする人がいない。たとえばグーグルマップやストリートビューはホントにすごいと思うけど、日本人に作りだせなかったのが残念な気がすると続ける。
 2025年に18歳、成人をむかえる。デジタルに対する期待と警戒、どちらも、かあさん世代よりくっきりしている。

 

<編集かあさん家の本棚>

■千夜千冊エディション『電子の社会』松岡正剛/角川ソフィア文庫

■『大図鑑 コードの秘密』ポール・ルンダ 編、浜口 稔 訳/明石書店

太古から現代まで見渡すコード図鑑。「バベッジのコンピュータ」のカラー図版あり。

■『日本インターネット書紀 この国のインターネットは、解体寸前のビルに間借りした小さな会社からはじまった』鈴木幸一/講談社
「IIJ社員第一号」だった浅羽登志也[多読ジム冊師]に教えてもらって共読した。1876年(電話の発明)から2013年までの年表が付されている。

 


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。