編集かあさん 若草山

2020/12/10(木)16:40
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若草山の鹿

「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。


 国見

 秋の終わりの午後、長男(12)と若草山に登る。
 若草山は、奈良公園の東に位置する標高342メートルの山。毎年1月に山焼きがあるため山腹にはほとんど木が生えておらず、見晴らしがよい。
 家から徒歩40分で登り口についた。高くはないが夕暮れが近いので少し早足になる。上がるにつれて、西から差す金色の光が強くなってくる。
 およそ20分で最も近い眺望ポイント、一重目に着いた。

 

若草山一重目


 「思ったよりかすんでる」と長男。
 近くに東大寺の屋根、少し先に興福寺の中金堂や五重塔が見える。市街地の外側で、ところどころから煙が立ち上り、南にたなびいている。火事ではなさそうだ。工場だろうか。
 長男がリュックサックから望遠カメラを取り出して、煙に向ける。
「わかった」。顔をあげ、モニタを見せながら「野焼きかな」。
 稲の刈り入れが終わったあとの営みだった。古代の王が行ったという「国見」を連想する。
 長男は本格的にカメラを構え、あちこち撮影を始めた。
 私もスマホで日々のサプリになるような景色を撮る。なびく雲の様子がどこかターナーの風景画だ。
 にぎやかな声が聞こえてきた。アジア出身らしい若い女性たちが車座になっておしゃべりをしているところに鹿がやってきて、にわかに撮影大会がはじまっている。

 

奈良市街を望む

野焼きの煙


 「ここ」と「むこう」
 
 長男にそろそろ帰ろうと声をかけると「もうちょっと」。
 自分の住んでる家を探しているけどなかなか決め手がない。家から山が見えるのだから、こちらからも見えるはずだと言う。
 言われてみればその通りだ。もう一度景色を見下ろすが、家々は夕日の色にかすみ、とても見わけられそうにない。長男は駅や県庁などを目印に、それらしい建物をしらみつぶしに望遠レンズでのぞいている。 
 そうか。何かが見えているということは、むこうからもこちらが見えるということなのだ。
 この間、道を歩いていた時に「金星から地球を見たら、どう見えるんだろう」という問いが長男から飛び出したことを思い出す。
 「金星から見たら地球って満ち欠けしているんだろうか。それと、知的生命体がいるってわかるのかな?」
 天体の写真を撮るうちに、こんなことを考えるようになったのかと感じたが、他の対象を見る時も同じアナロジーが働くのだと知る。
 長男は数分の奮闘の後、ようやく「これかな」という建物を捉えた。納得いくまで撮ったあと、下りる支度を始めた。

 偶然見えたもの

 翌日、「奈良のちょっと西に2つの塔を持つお寺ってある?」と尋ねてきた。
 若草山から撮った写真をじっくり見直していると、遠くにうっすらと塔のシルエットが浮かび上がったといって、印刷した写真をみせてくれた。かすかだが確かに見える。東塔と西塔を持つ薬師寺かな、と答える。
「ここから何キロぐらいだろう?」というので、ウェブサイトと地図で調べてみる。国宝の東塔は創建以来の解体大修理がこの春に終わったが、コロナで落慶法要が延期されていると知る。
 「見る」とは、「むこう」と「こちら」を両方掴む第一歩なのだ。
「少し形が違うんだよね。撮る向きが原因なのかな」
 今回はたまたま写っただけで望遠やピント合わせは十分ではなかった。今度は薬師寺の塔をよく見るために、空気の澄んでいる日に登ろうと計画を立てている。

 


 


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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