編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。
本の値段
近鉄奈良駅前の啓林堂書店で新しい千夜千冊エディション『全然アート』を買う。
帰ってきて子どもたちに開口一番「2000円の文庫は初めて買ったかもしれない」というと、長男(13)、これまでのエディションを取り出して比較し始めた。
「一番最初のエディションは1280円なんだ」。
『本から本へ』を見ながら言う。
「今までで一番分厚いのは?」というので、たしか『宇宙と素粒子』だと取り出すと480ページで1460円である。
「今回は560ページで2000円。なぜかキリもよくなってる」
単純に引き算すると80ページ増で540円プラスである。いやでも、テーマがアートだから図版が多くなっている。そういうのも関係するのかもしれない。本の値段ってどうやって決めるんだろう。
アートについては、「ピカソの絵って、わからへん」という会話が少し前にあった。立体的な作品は生活の中でも欲求のままに作ってきたが小学校の図工の授業は合わなかった。萌芽はあっても言葉でじっくり話すのはまだ先かなという感触があった。
共読はいったんここまでにして、読み始める。すると夜、中に挟まっていた「角川ソフィア文庫10月の新刊」リーフレットを手に話しかけてきた。
「『鎌倉殿と執権北条130年史』は、大河ドラマにあわせてるっぽい。説明文にも2022年大河ドラマって書いてある。他の本も、昔話の本だとか入門書なんだってわかる。でも、『全然アート』だけぜんぜん雰囲気ちがう気がする」
リーフレットの解説文にはこう書かれている。
洞窟画とデュシャンはひとつながり。松岡流の新芸術論、560ページの【特別編】
洞窟画はわかるよね。
「わかる」
デュシャンは?
「よく知らない」
そうか。デュシャンを知らない人にどう説明するかと思っていると、
「すごく遠いものを取り合わせてるんだろうなっていうことだけうっすらわかる。松岡流っていうのは、知ってる人しか分からないと思う」と続ける。
子どもの「わからない」に接すると、おとなの「わかる」が揺さぶられる。
本の帯には
洞窟画からデュシャンまで フェルメールから森村泰昌まで
ぼくはアートを好きに見てきた
とある。
フェルメールは知ってる?
「それは知ってる」
森村泰昌さんの本や作品は家にある。MoriP100というアートプロジェクトの作品の一つを山科のギャラリー「春秋山荘」で買っていたのが今生きるとは。夫が好きなのは徹底してヨーロッパの絵画。最近はイタリアのウフィツイ美術館の画集を読んでいた。
「わからない」のアフォーダンス
森村さんの作品や画集、帯や目次を手すりに探り探り話すが、本当にワカルためには、子ども自身が広大な世界にわけいっていくというプロセスが必要になる。家にいろいろな本があるというのは、扉があちこちにあるということだろう。大人だってまだまだ入り口にいるだけだ。
「わかりやすい」だけが扉を開ける動機になるのではなく、「わかりにくい」「全然わからない」がアフォーダンスになることがある。
「わからない」にどう近づくか。長男がまず使ったのは大人への【問い】と、他の本との【対比】だった。新刊案内は単なる案内ではなく、比較にも使える。「読相」の複数性を知った、22冊目のエディション読前読書だった。
新刊案内と一緒に挟まっていたイシス編集学校のフライヤー。
「すごいインパクトだけど、なぜダルマ?」と聞かれる
*MoriP100とは
「MoriP100」は、美術家・森村泰昌が、100アイテムのマルチプルを1アイテムにつき100点ずつ作り、限定販売するプロジェクト。
編集かあさん家にあるのは、マリリン・モンローをモチーフにした#001~005のセットと、メキシコの画家フリーダ・カーロをモチーフにした
#009|Collar of Pain 痛覚の首飾り(アイキャッチ画像)
#014|VIVA LA VIDA (Plate and Wagashi) 生命万歳
(写真:松井路代)
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。 ムナカタシコー 『戒・浄土・禅』を見ながら、「今度のエディションの表紙はムナカタシコーの版画だ」とつぶやくと、 […]
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