編集かあさんvol.26 トマトの収穫

2021/09/13(月)08:21
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。


 間引きという方法

 「今年の天気、トマトにとってはよかったみたい」
長男(13)が家庭菜園で育てているトマト11株、途中で枯れたりすることなく、次々に花が咲き、実をつけた。
 毎日夜、収穫した実を写真に撮って、エクセルに数を入力していく。「収穫が6月25日から8月31日までずっと続いている。連続収穫記録更新中」「ぜんぶで700個を超えた」と喜ぶ。
 濃紫の紫ミニトマトと熟しても緑色のままのグリーンミニトマトは、苗も種がほとんど売っていないので、種とりからはじめた。それぞれ15粒ほどまいたが、3段階にわけて間引きして、最終的には一本ずつにした。

2回目の間引き

根もチェックする


 多く収穫できたのは、水やりなどの管理がうまくいったからだけでなく、苗作り、つまり【選択】がうまくいったというのが大きい。
 種を多くまいて育ちのよいものだけを選びだしていくという方法を、ヒトはいつ習得したのだろう。
 長男に良い株の見分け方を伝えたのは私ではなく、野菜作りの本やテレビ番組である。それに今までの経験をプラスして進めていく。
 
 親と子の違い

 紫ミニトマトの実は、育つにつれて親とはずいぶんちがう色合いや形をしていることがわかってきた。親はまるくて大きかったが、子どもは実の先がとがっていて少し小ぶり。色も紫というよりも赤っぽく、うっすら縞模様が入った。ナス科の野菜でゼブラ模様というのは珍しくはないが、ここで出るとは思わなかった。
 グリーンミニトマトは、収穫のタイミングをどう見計らっているのだろうということが興味の中心だった。よく観察すると、ずっと同じ緑色ではなく、白っぽい緑から黄色っぽい緑に変化していくことがわかった。収穫のタイミングの判断がむずかしい。色だけじゃないのかもと推理し、実の柔らかさも入れてみることにしたらしい。
 タイミングが合っているかどうかは味が決め手になる。

 

全11株。矮性以外は背丈を越えた

熟しても緑のままのグリーンミニトマト


 これぐらいかなと採ったらちょっと酸っぱい気がする。「早かったかも」とできるだけ遅らせ、追熟させたものは、酸味が少ないが、正解はたしかではない。また、長く枝においておくと雨で傷んだり、カメムシやカナブンに食べらたりして、収穫量が減る。
 「難しいなあ」と言う。13歳の今は、ぜんぶ「遊び」であるから、この難しさがおもしろさに転じていく。表情に現れている。

 型がひっぱる

 今年、長男が選んだトマト11株はすべてちがう品種だった。スタートダッシュがいいもの、長く収穫できるもの。皮が薄いもの。「違い」の現れは観察して飽きない。
 一番の目的は、赤、黄、オレンジ、緑、紫の五色を揃えることだったらしい。天候にもめぐまれて意図したとおりの無事、五色揃えて写真を撮ることができた。

5色のミニトマト。一番左の紫ミニトマトは意外にもおしりがとがった


 日々の手入れや観察に、大人の指示はほとんどいれなかった。トマトの成長自体のアフォーダンスに加えて、「ソロイ・キソイ」「アワセ・カサネ」「スコア」等の「型」がひっぱった。
 大人がしたことはプランターや土などのお金を出すこと、毎日の発見を共有すること、食べること。「おいしい」だけで終わらず、微細な味の表現にトライした。
「黄色よりオレンジが、味が濃いね」「限りなく酸味が少なくて甘味が前に出てる。皮薄いから流通に乗りにくいのかも」。
 8月最後の週、白菜、ブロッコリー、えんどうの苗を買いに行った。鰯雲の下、秋冬野菜のシーズンが始まっている。

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。