誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
『夜に星を放つ』は5つの家族の物語だ。
家族のアイダには、生も死も、愛も性も、老いもコロナもある。
3つめの短編「真珠星スピカ」にさしかかった時、一瞬戸惑った。のっけから幽霊が出てきたからである。窪美澄さんは、恋愛や性を描く作家だと思っていて、オカルトやファンタジーものを書くイメージが無かった。
主人公の佐倉みちるは中学一年生の女の子。いじめの標的になっていて、保健室登校をしている。母親は半年前に交通事故に巻き込まれて死んだ。意外にも母は幽霊になって家に居ついた。
話すことはできないが、いつもそばにいてみちるを見守っている。慣れない食事づくりをしていると現れて、ジェスチャーで「味噌は火を消してから」「みじん切りのキャベツはもっと細くね」と伝えるのだ。みちるがそのようにすると、ほっとした様子を見せる。みちるの父親のひどい寝癖を一緒に笑ったりもするが、どうも父親には姿は見えていないらしい。
あ、この「幽霊の母さん」は私に似てるな、と思った。【類似】が見つかると、物語の世界と現実世界を隔てる壁が急に薄くなる。これは「わたしの物語」かもしれないと仮想して、もう一度最初から読み始めた。
中学校ではこっくりさんが流行っている。
みちるは担任の船瀬先生にひいきされているという理由で、上履きに「インラン女」と書かれたり、霊がついていると騒がれたりする。インランという漢字が書けなかったらしいと推測するほど、みちるの視線は冷静だ。だからさらにいじめられるのだということも、自分でわかっている。アタマではわかっていてもカラダは動かない。
物語の進行に伴って、「母さん」のプロフィールが少しずつ明かされていく。泥団子でもホットヨガでも、なんでも興味を持ってやってみる母さん。なくし者の天才だった母さん。「子どもは遊ぶのが仕事」といって無理に宿題をさせようとしなかった母さん。次々に【類似】があらわれる。アタマではなく、ココロが揺れる。長男も長いこと教室に入れなかったからなおさらだ。
私もよく自分が死んだ後のことを考える。以前は、家族を残しては死ねないという気持ちだった。けれど、ある時から逆転した。
きっと私が居なくなったあとに、ようやく子どもたちや夫は、本当の意味で【別様の可能性】を花開かせるのだろう。最初は嘆いたり、混乱したりもするだろう。植物を育てたり、コロッケを揚げたりしているうちに、しだいに思い出すことは間遠になる。母という重しがなくなり、気がつけばそれぞれが行きたいところへむかっているのだろう。
その様子を先に死んだ者は見ることはできない。それが「ほんと」だからこそ、世界各地に、霊(スピリット)が死後もこの世にとどまる物語が古くから伝わっているのだろう。
霊たちは、血族が危機一髪の時は、掟破りスレスレの方法でこの世に力を及ぼすことができるというのが物語の「類型」だ。ただしそのあとは、さらなる別離が待っている。
みちるの母もあることを成し遂げて、見えない世界へ去る。生き続ける者みちるや父親にとっても、それでよかったのだ。そう思いながら、三回読んで三回とも泣いてしまった。
5つの短編は、いずれも「別れ」という名の新たなる旅立ちで終わる。少しビターな旅立ちが、星々のかすかな、けれど確かな光で照らしだされている。
読み解く際に使用した「編集の型」:
類似、アナロジー[守]
「型」の特徴:
「似たものとつながりたがる」という情報の特性。
思考はそもそも、「同型」を求めて進むのではなく、似たものとつながるために「準同型」を継から次に集め、連想脳をいっぱいにしながら進んでいく。類推(アナロジー)は認知の推進力である。
参考 千夜千冊1642夜『類似と思考』
夜に星を放つ
著者: 窪美澄
出版社: 文藝春秋
ISBN: 9784163915418
発売日: 2022/5/24
単行本: 220ページ
サイズ: 13.7 x 2 x 19.4 cm
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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