おしゃべり病理医 編集ノート - 校長とおさな心に肖る

03/25(水)09:38
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 先日の感門之盟のテーマは、「あやかる編集力」。レディーモトカ師範は、肖ることはたくさんのわたし、と宣言し、そのことをエディストに投稿した福田容子師範は、「あやかり」とは、揺れ動いて変化することであり、感化されて似ていくこと、骨肉相似ること。これが似ないと「不肖」となる、と鮮やかに字解した。
 
 『説文字解』の「骨肉相似也」から『金文』にさかのぼると、「肖」には祖先の業を嗣ぐ意味があるとされ、「肖」は小さな肉が骨に連なっている形を示すとか。だから「肖」は“小さなもの”を示す。校長が肖ることの具体例として100円ショップの商品を取り上げた意味が見えるように思う。モノにもっと肖った方がいい。つけまつげやスニーカーのカタログなど、ささやかなモノたちへのフェチがなせるモーラの力。
 
 校長の講義は、つねに表層・中層・深層の三層構造からなる。今回も100均のモノたちを表層にした三層構造。深層にあるもの、すなわちアーキタイプはなんであったのだろうか。それは明示されるものではないが、講義のあちこちに断片上に散りばめられている。聴衆側がそれぞれにその破片を拾い上げ、様々な仮説的推論を立てていくことが校長に肖るということにほかならない。たくさんのわたしによる仮説的推論である。
 
 揺れ動いて変化するというあやかり。ふと昔の出来事を思い出した。ある大学の医学部面接試験を受けたときだから、20年以上前のことになる。面接官は3名いたのだが、受験生のわたしが座る位置からずいぶんと離れた窓越しに座っていて、面接官の表情は逆光でよく見えない。けっこうな圧迫面接だった。いや、もしかしたら、当時のわたしが軟弱すぎて圧迫面接だったと感じたに過ぎなかったのかもしれない。色々答えづらい小難しい質問をされたと思うのだが、最も答えに窮した問いを今でも鮮明に覚えている。
 
 「あなたにとって信念とは何ですか」
と、問われた。し、信念? 答えられずにもごもごしていると、
 「あなたにとって揺るがないことは何かって聞いてるんだよ」
と、苛立った声で問いの解説が飛び込んできた。ますます混乱して何を口にしたか覚えていない。そして、不合格になった。
 
 医師としてどんな理想に燃えているのかということをアピールすべき局面だったのだと思うが、それまで、繊細で緻密な生命の構造に魅せられた、という理由が先行し、職業としての医師にそれほどリアルな将来像を思い描けていなかったわたしは、面接官的には、信念を持たず、意欲がない受験生に見えたのだろう。
 
 今でも信念とは?と聞かれてもよくわからない。あの頃からわたしは何かに肖りたいと思っていて、揺るがない信念なんてもつことはできない。つねに何かと触れ合って揺れ動いていたい。
 
 イシス編集学校は“揺るがない信念”を問われても答えられない方が集まっているように思う。あやかったりあやかられたり、揺れ動く人々の集まり。フラジャイルであるが、しなやかで強い。アジールであり共闘の場でもあり、将来への希望も過去の面影も共存できる、伝統と前衛が交じり合う稀有な学校である。
 
 母親の鏡台にあった小さな物たちに記憶のトポスが宿ると校長はいう。肖ることは、おさな心を思い出すことでもあるのだろう。
 肖るとは何か、という問いは、学ぶとは何か、という問いに形を変えたりしながら、紀元前からずっと模索されてきたことであろう。歴史的現在に立つ肖りもあれば、一方で、肖りの方法を自分の中に探しにいくこともある。千夜千冊にこんな一節があった。
 
  ぼくが「幼な心」というものに異様な関心をもったのは、かつて指さしてきた「何か」が大人になってなくなってしまうことへの喪失感にもとづいたように想う。だから「記憶事物ノート」(面影ノート)に、自分が入り込んでいたボール紙の箱や母の鏡台のキラキラしたものや羽子板の大きな顔について、いろいろノーテーションをしたのだった。 1669夜『おさなごころを科学する』
 
 ここに校長に肖るひとつの方法が示されている。大きく自分の存在が揺さぶられるモノに出会う編集力。日々、そんな“不気味の谷”に出会えるスリリングな注意のカーソルを磨きたい。
 
守の38番編集稽古と「肖」

  • 小倉加奈子

    編集的先達:ナシーム・ニコラス・タレブ。病理医で、妻で、二児の母で、同居する親からみると娘、そして師範であり火元組。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべりな図鑑』シリーズの執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Labo」開発へ。おしゃべり病理医の編集的冒険に注目!

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