おしゃべり病理医 編集ノート - 前作より100倍面白い図鑑は遊刊エディストとともに

2020/09/30(水)10:00
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 今回は、自著の宣伝です!


 ツッカム正剛の時、「2冊目書いていますっ」と勢いで言ってしまいましたが、実は、一生出来上がらないんじゃないかとあの時は思っていました。そんな2冊目の図鑑。なんとか完成しました!『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑 人体サプライチェーンの仕組み』(CCCメディアハウス)10月1日発売です!

 

 先日の感門之盟では、エディストコーナーでちゃっかり本の紹介までさせていただきましたが、この本はまさに、遊刊エディストにアシストされてできたといっても過言ではありません。また、エディスト・ライター全員が目指す校長の執筆術のお手本と編集学校で学んできた編集の型がなければ、日の目を見ることはありませんでした。

 

 松岡正剛の千夜千冊エディションシリーズ1冊目『本から本へ』が刊行されたのは昨年の5月。ちょうどその頃13離がはじまり、離の会議(別当会議と呼ばれています)で、校長がどんなふうにエディションを編集していったのかを教えていただきました。

 

 太田香保総匠の「千夜の12のひみつ」にも写真入りで説明があったように、校長のエディション編集はすさまじい。章ごとのタイトルを仮留めし、関連すると考えられる千夜を百数十夜リストアップし、それらをダイナミックに入れ替えながら、章立てを含めたエディションの方針を決めていく。そのうえで、足りないと思われたものを新しい一夜としてウェブの千夜千冊として書き上げ、再び推敲して、エディションに収めることも。いったん書いたものをまとめただけでしょ?と思われている読者がいたとしたら…その想像を絶する編集工程を目の当たりにしてほしいくらいです。

 

 例えばシリーズ16『宇宙と素粒子』には、このエディションのために書き足された6冊もの最新千夜が投入されています。5つの章立ての中、長大な1001夜『エレガントな宇宙』がひとつだけ収められた第4章「千一夜目の宇宙論」をのぞき、各章に1つないしは2つの新しい千夜が投入され、その濃密な1夜が章の屋台骨となっていたりします。世の中にあるエッセイ集の多くは、並び方が編集されている程度だと思いますが、ここまで新旧の文章がまぜまぜされ、章ごとの特徴が際立ち、さらに、前口上から追伸、口絵のedit gallery、字紋や表紙デザインにいたるまで、「細部」にこそ編集が宿るという言葉通りに編集され尽くしたシリーズ本は他にないでしょう。何度もウェブ上で読んだことのある一夜でさえも、初読のような感慨と新たな発見を読者にもたらします。

 

 つねに、エディションシリーズ編集とウェブ千夜を往来し、新しい千夜も書き続ける松岡校長。圧倒的な読書量を保ち、数々のプロジェクトを抱えつつ、アスリートのように様々な編集筋を鍛え続ける松岡正剛に肖りたい。そんな気持ちではじめたことのひとつが本書の執筆でした。

 

 カラダと病気の図鑑とあるように、本書は、身体の仕組みと病気を1冊で、しかも一般読者向けに解説するという無謀な試みでした。基本、病気全般が1冊にまとめられた医学書は、持ち運び不可能な大書であることがほとんどです。病理医なら誰でも持っている『外科病理学 第5版』(文光堂)は、全身の疾患の病理学的所見について臓器ごとに解説されていますが、2分冊(1巻:944頁,2巻:948頁)で価格も重量級、46,200円もします。昔からの内科医のバイブル『内科学 第11版』(朝倉書店)の机上版は、2534頁です…

 

 専門書の分類を使って病気全般を愚直に書き始めるとすぐに終わりが見えない状況に突入しました。300ページくらいにまとめてくださいね~という編集者さんの声が聞こえて、途方に暮れる中、これは全く別のアプローチをしなければいけないのだろうと思いました。そこで思い出したのが、校長のエディション編集における目次執筆の方法でした。

 

 身体の仕組みに関しては、思い切って見立てを使い、酸素と栄養のINとOUTだけにフォーカスしてみよう。病気の分類に関しては、網羅に向かうのではなく、様々な疾患において、必ず動く主要な病態に着目し、その「関連性」を説明してみよう。その2つの方針を決めて、目次執筆を一からやり直すことにしました。取り上げる病態を並べ直し、その中でどんな疾患をピックアップするか、膨大な疾患群の中から取捨選択を繰り返していきました。以下、少し長くなりますが、出来上がった目次です。

 

Ⅰ.健康と病気のアイダ考 ~どこまで健康?どこから病気?
0.どこまで健康? どこから病気?
1.病気の基準
【おしゃべり病理ノート1】 「おぐら病」はやめよう
2.いざ病院へ 病院でわかること
【おしゃべり病理ノート2】名か実か
3.「病気」と「病態」
【病態編集稽古1】バナナの病理診断
 
Ⅱ.人体サプライチェーンの仕組み
0.つながり、つらなる人体の仕組み
1.人体のサプライチェーン
2.原材料調達の場、肺と消化管
3.肝臓はマルチな製造工場
4.物流を担う毛細血管
5.消費担当大臣 脳と骨格筋
6.身体を見守るのが“肝腎”
7.サプライチェーン・マネジメントの本社と営業所
【おしゃべり病理図解1】読書運動神経 
         
Ⅲ.つながり、つらなる病態図解 ~5つの病態を観察しよう
0.つながり、つらなる病態
1.炎症 “「ゆるゆる→パンパン→カチカチ」と進む”
2.感染症 “食べたらわかる ” 
3.循環障害 “破れるor詰まるor固まる ”
4.腫瘍 “形>ふるまい>機能の異常”
5.代謝障害 “多すぎor少なすぎ”
6.再び、つながり、つらなる病態
【おしゃべり病理図解2】音読リズム 

Ⅳ.個人と社会、身体と精神のアイダ考 ~誰が病気? 何が病気?
0.人体と社会、何が違う?
1.どこまで経過観察、どこから治療?
2.臨床医が力を入れる臨床推論って?
【病態編集稽古その2】腹痛妄想ワーク
3.心の病と身体の病気?
【おしゃべり病理ノート3】ゲーマーから腕のいい外科医へ

番外図書室 

 

 

 実際の本の内容はぜひ、アマゾンでポチッ、あるいはお近くの本屋さんで実際に本書を手に取って確認していただければ幸いです。前作の『おしゃべりながんの図鑑』では、大阪大学の病理学教授、仲野徹先生との対談コーナーをはじめ、病理医の日常をリアルに表現したくて、対話形式の部分が多かったのですが、今回は対談の代わりに、「おしゃべり病理ノート」「病態編集稽古」「おしゃべり病理図解」といったおしゃべり連打の編集工学的なコラムをいくつか用意しました。それらは、遊刊エディストコラムをベースに手を入れ、いくつかの図解とともに編集し直しています。遊刊エディスト自体もURL付きで紹介しています!前作よりも100倍面白い…はずですっ!!

 

 来月発売の千夜千冊エディションは、世界名作選Ⅱ『方法文学』が刊行されます。千夜千冊エディション、遊刊エディスト、そして『おしゃべり病理医図鑑』シリーズ(って言ってもまだ2冊)、いずれもご贔屓に!

 

CCCメディアハウス 書籍 『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』 http://books.cccmh.co.jp/list/detail/2461/

 

★今回は、イラストの代わりに、お絵描き動画をお届けいたします!

 


  • 小倉加奈子

    編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。