ピアノやバイオリンなどの楽器演奏は、香保さんのいうように、正確な分節化(アーティキュレーション)が密接にかかわる。それは、オーケストラでたまたま音大生の隣で演奏した時に衝撃を受けるほどだったのでよくわかる。一音一音を減衰することなく、正しい音程と長さで演奏できることが、楽器の持つ力を引き出し、表情豊かな表現に向かう第一歩なんだな、ということがよくわかった。「脱力」しなければ、細かく音を刻んでいくのは難しい。小さな筋肉たちを適度に脱力させ、的確に音符のひとつひとつを捉え、楽譜のうえを自在に踊れるようにひたすらに音階練習を繰り返す。
ピアノでもバイオリンでも発表会本番は、脱力問題に向き合うことになった。緊張して、脱力からほど遠い状態になると、ピアノの場合は指がもつれた。バイオリンの場合は、弦を押さえる左手のもつれに加え、弓を持つ右手の方がさらに大きな問題をおこす。緊張してがたがた震えると、弓が弦のうえで不必要にバウンドしてしまうのである。バイオリンが泣く、と表現されるようなビブラート奏法は、弦を押さえる左指の力を微妙に揺らすことによって生まれるのだが、震えた右手によるビブラートはニセモノであり、オケではみんなそれを「びびらーと奏法」と自嘲気味に呼んでいた。
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
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